「子どもの貧困が増えている」と聞いても、実際に身近にいないと「本当かな?」と思うのではないでしょうか。しかし、それは目に見えないだけかもしれません。もしかしたらあなたの近くにいる子どもも、実は貧困に苦しんでいるかもしれないのです。

貧困状態の子どもはどんな生活をしている?

「貧困状態にある子ども」というと、路上生活をしている子どもや、食べるものがなくてやせ細った子どもの姿が思い浮かぶ人もいるのではないでしょうか。

日本で貧困状態にある子どもがどんな生活をしているのか、イメージがわきにくいかもしれません。その理由は、日本の貧困は目に見えにくい「相対的貧困」が多いことにあります。

「見えない貧困」相対的貧困とは

生きていくのに必要な衣食住が足りず、必要最低限の生活水準に満たない「絶対的貧困」に対して、「相対的貧困」は先進国にも存在しています。相対的貧困は、その国や地域の平均的な生活水準に達していない状態です。

OECD(経済協力開発機構)では、世帯あたりの等価可処分所得(可処分所得=いわゆる手取りから算出した所得)の中央値(データを大きい順に並べたときに中央になる値)の半分を貧困線と設定しています。

相対的貧困とは、世帯の所得が貧困線に満たない状態です。2018年の国民生活基礎調査によれば、日本の貧困線は127万円、相対的貧困率は15.4%となっています。

参考:国民生活基礎調査 |厚生労働省

子どもの約7人に1人が貧困状態にある

「所得が対象なら、基本的に働いていない子どもの貧困率は分からないのでは?」と思うかもしれませんが、子どもの貧困率の算出も、世帯員全ての可処分所得が基になっています。つまり、家庭の貧困はそのまま子どもに反映されるのです。

2018年の調査時点で、日本の子どもの貧困率は13.5%という結果が出ています。子どもの約7人に1人が貧困状態にある計算です。子どもが10人いたら、その中の1人は貧困線に満たない生活をしているということになります。そう考えれば、日本の子どもの貧困が深刻なレベルにあることが実感できるのではないでしょうか。

参考:国民生活基礎調査 |厚生労働省

貧困家庭の子どもが被る不利

日本国憲法では、全ての国民に「平等であること」が保障されています。しかし、残念ながら貧困状態にある子どもは、生きていく上でさまざまな面で影響を受けているのが現実です。どのような不利を被りやすいのかを見ていきましょう。

教育格差や教育機会の喪失

家庭の経済状況によって生じやすいのが、子どもが受けられる教育に差が生じる「教育格差」です。例えば、塾や習い事に行けない、家計を支えるためにアルバイトをしなくてはならないといった理由で、経済的に問題のない家庭の子どもより不利を被る傾向があります。

このほか、進学率を例に挙げてみましょう。大学や専修学校など、高校卒業後に進学する割合は、2011年のデータでは、全世帯で73.5%、ひとり親世帯になると41.6%にすぎません。

生活保護世帯ではさらに下がって、2016年のデータでは33.1%です。専修学校などを除く大学だけの進学率では、全世帯52.1%に対し、ひとり親世帯は23.9%、生活保護世帯で19.0%となっています。

参考:子供の貧困に関する指標の推移|内閣府

心身の成長に影響を及ぼす恐れ

貧困状態にある子どもは、他の子どもが普通にできていることが「自分だけできない」ために自己肯定感が下がってしまうことがあります。

例えば、家族での旅行や、友達の間で人気のあるゲーム、新しい服や靴を買ってもらうといった経験がないことが重なると、「自分は人より劣っている」「自分には価値がない」と思い込んでしまう傾向にあるのです。

また、貧困家庭の子どもの「食」も問題になっています。十分に食べられなかったり、栄養の偏った食事が多かったりすると、集中力の低下や体調不良等、体や心の成長に影響を及ぼしかねません。

将来の社会的損失にもつながる

子どもの貧困は、長い目で見れば日本の将来にも関わる問題です。

例えば、教育格差は所得格差につながります。就職の際に「大卒」を条件にしている企業は少なくありません。

貧困家庭の子どもは大学進学率が平均より低いだけでなく、経済状態によっては高校にも行っていないというケースも見られます。その結果、低所得の仕事に就かざるを得ないということもあるのです。

日本財団の推計によれば、子どもの貧困対策を行い、進学率や中退率が改善されることで、将来的に国の財政も1.1兆円改善すると考えられています。

参考:子どもの貧困の社会的損失推計レポート|日本財団

貧困の子どもたちへの取り組み

子どもの貧困を改善するには、子どもだけでなくその親への支援も必要です。国がどんな取り組みをしているのか、主な支援の内容を見てみましょう。

教育支援

貧困家庭の子どもたちへの支援として、中学校へのスクールソーシャルワーカーや
小中学校へのスクールカウンセラーの配置があります。子どもの経済的な相談や、悩み事を聞いてくれる存在によって、心身の安定を図るものです。

また、政府は従来の貸与型奨学金制度に加えて、2017年度より経済的な理由で進学を断念することがないように給付型奨学金制度を導入しています。また、2020年度からは、授業料や入学金を免除または減額する高等教育修学支援制度も実施しています。

参考:奨学金事業の充実|文部科学省

保護者への支援

経済的支援の1つである児童扶養手当は、ひとり親世帯や保護者に障害がある世帯に給付される支援金です。世帯の所得と子どもの数に応じて、金額と加算額が決まっています。

また、母子父子寡婦福祉資金貸付金制度は、現在子どもを養育しているひとり親に対して、本人の経済的自立の助成や子どもの福祉に必要な費用を貸し付ける制度です。

経済的な支援に加えて、保護者に対する総合的な支援として自治体の相談窓口のワンストップ化が進められています。目的は、生活支援や就業支援をはじめ、支援側が情報を共有して協力体制を取ることで、実情を踏まえて相談者に寄り添った支援を実現することです。

参考:児童扶養手当について|厚生労働省

参考:母子父子寡婦福祉資金貸付金制度 | 内閣府男女共同参画局

子供の未来応援国民運動

「子供の未来応援国民運動」は、貧困状態にある子どもへの支援の輪を広げ、貧困の連鎖を断ち切ることを目的とした、官民一体の運動です。

主な活動は以下の3つです。

  • 子供の未来応援基金:企業や個人から募った寄付を、公募・審査・選定した支援団体の活動資金として提供する
  • 企業とNPO等のマッチング:自社の特性に応じた協力を希望する企業と、子どもたちへの支援を実施したいNPO団体等を結び付ける
  • 広報活動:「子供の未来応援フォーラム」をはじめとする、国民に子どもの貧困の現実を知ってもらうための活動

参考:子供の未来応援国民運動|内閣府

個人でできる支援は?

子どもの貧困に対して、私たちにも何か支援ができるのでしょうか?「何かしてあげたい」「自分も協力したい」と思ったときに、個人でできることを紹介します。

ボランティア活動に参加する

まず、貧困家庭の子どもたちへのボランティア活動をしている地域の有志や支援団体があるかを調べて、積極的に参加してみましょう。

金銭的な寄付だけでなく、勉強を教える、一緒に遊ぶなど、自分のできる範囲で協力するだけでも十分です。屋外でのレクリエーションや皆でできるゲームなどを提案するのもよいでしょう。

また、食生活が不規則だったり、不十分だったりする子どもたちに食事を提供する「子ども食堂」の手伝いや、ボランティア団体の運営を手助けすることもボランティア活動になります。

支援団体に寄金・寄付をする

ボランティア活動には参加できなくても、すぐにできる支援として、子どもの貧困に取り組んでいる支援団体への寄金や寄付があります。支援団体は活動資金を募っていることが多いので、問い合わせてみましょう。

また、子どもたちに渡したり、バザーに出したりするための衣類や学用品などの物資を求めている場合もあります。自分が提供できるものがあったら、各種条件を確認してから届けるようにしましょう。

まとめ

貧困状態にある子どもたちは、一見すると分からない場合もあり、支援の手が届きづらく本人たちも助けを求められずにいる可能性があります。

公的な支援はもちろん必要ですが、まずは相談しやすい環境を整えることが大切ではないでしょうか。そのために、私たちも貧困状態にある子どもたちの現実を知り、できることから支援を始めて、輪を広げていきましょう。