このたび、グローバルに活躍されているアーティスト 増田セバスチャンさんが日本寄付財団の認定アンバサダーに就任され、増田さんと日本寄付財団代表理事の村主さんとの対談が実現しました。認定アンバサダー就任についてや、お二人のアートや社会課題に対する思いなどを語っていただきました。

認定アンバサダー就任について

– お二人が出会ったきっかけやお互いの印象についてお聞かせください。

村主 僕は昔からアートに興味があり、アートの支援をさせて頂いていたこともあって、知人に増田さんを紹介していただきました。増田さんご自身が非営利団体の活動をされていることを知って、更に距離が縮まったような気がします。

増田 僕は2022年初頭にニューヨークへ拠点を移したのですが、村主さんがニューヨークにいるときは連絡をくれて、一緒にジャズを聴きに行ったこともあります。村主さんは何でも知りたがる、とても好奇心旺盛な方だなというのが率直な印象です。また、アートだけではなく、格闘技やプロレスが好きということが僕たちの共通点ですね。

村主 増田さんは有名な方なので、知り合いになる前からもちろん知っていました。僕の中では、増田さんは良い意味でつかみどころがなく、コミュニケーションが難しい方なのかなと思っていたのですが、実際にお話ししてみると意外と共通点も多くてすぐに打ち解けることができました。

増田 僕はアートは本来、社会とリンクしているべきだと考えているので、基本的に、ベクトルを外の世界に向けています。経済面で世の中を変えているのは第一線でビジネスをしている方々な ので、そうした方々とも対等に話ができるよう、普段から様々なジャンルの方と交流をしています。

– 増田さんに認定アンバサダーをオファーした理由には、どのようなものがありますか。

村主 僕が実現したい世界平和はとても大きな夢ですし、普通に考えたら叶うわけないと思われるかもしれません。けれど、僕はそこに真正面から向き合いたいと思っています。増田さんはとても有名な方なのに、”俺はすごいんだ”という感覚で話をされる方ではありません。日本で終わりたくない、まだまだこれからだ、という思いがあるからこそ、ニューヨークへ拠点を移されたのだと思います。増田さんと僕は、やっていることこそ違いますが、大きなものを追いかけているという点では同じです。そんな未来を見続けている増田さんから、多くのことを学ばせていただきたいと思い、今回アンバサダーをお願いしました。

増田 アンバサダーを受けさせていただいたのは、僕が代表を務めるNPO HELI(X)UMの活動とリンクできればと考えたからです。日本寄付財団さんとご一緒することで生まれる様々なシナジーを期待しつつ、ずっと温めていたアートと教育のイベントや、日本のカルチャーが好きな現地 の方々との交流の場作りなど、少しずつ実現できればと思っています。ニューヨーク以外にも、 僕はオランダを中心にヨーロッパのネットワークも持っていますので、さらに活動の場を広げてい ければと思っています。

増田さんの活動について

HELI(X)UMによるアムステルダムのアーティスト・Bas Kostersの展覧会「My International Face」には横浜美術大学の学生たちが参加(2019年)

NPO法人HELI(X)UM(以下、ヘリウム)を設立したきっかけについてお聞かせください。

増田 2017年度の文化庁文化交流使に指名いただき、それまでも様々な国を訪れましたが、多く の若い世代が声を揃えて「ポップカルチャーもしくはファッション、アートを学びに日本に行きたい。でもどうやって行けばいいか分からない」と言っていました。

また、海外で学びたいという日本 の学生の声を聞くと、海外へ行っても語学学校に通うだけで終わってしまい、結局アートの勉強 までたどりつかないというパターンも多いようでした。そこで、学びたい学生と海外または日本の 学校をダイレクトにエクスチェンジできるような活動が必要なのではないかと考えました。

言葉の壁があったとしても、同じ目的の仲間と一緒に交流した方が良いスパイラルが生まれま す。そういった密なコミュニケーションを通じて学ぶことが、日本のカルチャーやKawaiiに代表さ れる日本独自の哲学・思想を世界に広げる良い機会になるのではと思ったのです。次世代の未 来のために自分たちができること、それがNPOを立ち上げたきっかけです。

– ニューヨークではどのような活動をされるのでしょうか。

増田 移住して住居を構えてからはまだ3ヶ月程度なのですが、現在は会社の立ち上げ、制作スタジオの準備など、基本的なインフラを整えているところです。移住後初のニューヨークでのイベントを7月末に開催する予定なので、今は東京もニューヨークもその準備の真っ最中です。

イベント概要

タイトル:増田セバスチャン「COLORS FOR PEACE」
会期:2022年7月29日(金)-31日(日)
会場:Mizuma & Kips(324 Grand St, New York)
https://sebastianmasuda.com/exhibition/colors-for-peace/

増田 『COLORS FOR PEACE』では、「平和を考える」をテーマに、平和のための4つの色とし て、青・黄・緑・ピンクをフィーチャーした作品を展示します。僕が愛用するヴィンテージシーツを使用したペイント作品やリトグラフ、自由に寝そべることが出来るベッドのインスタレーションとドネーションボックスも設置します。来場者は会場に訪れることによって、未だ収束しない戦争によって平和な日常生活を脅かされている人々に想いを寄せ、アートを通してサポートをすることができる というイベントです。

アーティストが拠点を移して初めて行うイベントとしては、個展を開くのが一般的だと思います。しかし、僕自身のアーティストとしてのアティチュードは、社会とどうリンクできるか、そして僕 の作品と関わることで、どうやって社会とコネクションしていくかという点にあります。それで今回、 チャリティアート展という形で実現することになりました。

アート × 社会課題について

アートプロジェクト「TIME AFTER TIME CAPSULE」ブラジル・サンパウロ開催の様子(2018)

– アートへの支援がどのように社会課題へ貢献していくとお考えでしょうか。

増田
 15年前、主催するイベントで、入場料の一部が世界の子どもたちのワクチンために寄付さ れるというチャリティー企画を行ったことがありました。寄付先のNPOの方々から色々と教えていただく中で、寄付したお金がどのように使われるかを、どうしても自分の目で知りたくなったので、 カンボジアやミャンマーに足を運んで、実際にワクチンが投与される現場を見に行き、記録映像をイベントで流しました。 アート=部屋に飾るもの、売買するものという認識の方からすると、飢 餓や貧困といった社会課題から少し離れているように感じるかもしれません。しかし、アートには自身を突き動かす力があり、それが行動する動機と紐づいているということを、その時身をもって 体験しました。

村主 僕たち日本寄付財団の活動は、飢餓や病気といったアートやスポーツを楽しむ以前の方々の支援もやっていかなければなりません。しかし、アートは人としての魅力や生きる意味といったところに繋がっていくと思いますので、アートへの支援は広い意味での世界平和の定義に当てはまるのではないかなと感じています。

– 日本寄付財団とヘリウムの描く未来像についてお聞かせください。

村主 今回ヘリウムさんと一緒に進めていくにあたっては、アートが軸になると思います。僕はアートのプロではありませんので、アートを通した社会貢献を実現していくヘリウムさんの活動に期待を寄せています。

増田 ヘリウムの活動には、これから脳科学をはじめとした最先端の研究をしている大学や企業も参加する予定です。脳科学の分野の大学がなぜ僕に興味を持ってくれるのかといいますと、僕の作品が持つカラフルな色彩やKawaiiという共感覚は、例えばアルツハイマーの方などの脳を直 接刺激する効果があるかもしれないからだそうです。僕が意図せずそのような作品を作り、アート にあまり興味がない人にも影響しているとしたら…そしてそれを研究 するために教育機関が参画 してくださるということは、なんだかとても面白い構図ですよね。ヘリウムも最初はアートというテー マから始まりましたが、アートだけに限らずもっと幅広い活動になっていくと感じています。

村主 増田さんと僕は、大きい意味で社会貢献に対する考え方が似ているように感じています。今後ヘリウムさんも進化されると思いますし、それを一緒に見させていただけるのがとても楽しみです。

 読者に向けたメッセージ

-日本を離れてみて感じることはありますか。

増田 ニューヨークには世界中からたくさんの人が集まってきて、ビジネスやアートなど、様々なことを発信して社会をサバイブしています。だからこそ、その中で存在感を示すことはとても大切な ことではないでしょうか。世界の縮図としてニューヨークを見たときに、アジア圏の国では、日本よりも中国や韓国が存在感を示しています。せっかく日本には独自の良いコンテンツがあるのです から、日本人がもっと団結してアピールしていかないと、この先グローバルな世界で生き残るのは難しいと感じてい ます。

村主 ニューヨークを始め多くの国を訪れて感じているのは、日本人の感覚や考え方は、どこの国とも違うということです。例えば増田さんのようにアートとしてアウトプット出来るのであれば、日本人の持つ独自性を活かしやすいと思いますが、僕たちのような一般人は、どう打ち出していけば良いかと常に考えています。アメリカ独特の多様性の文化の中にアジア人が入っていくために、高いハードルは確実に存在しています。そこを突破するために何が必要なのか、明確な答えはまだ出ていませんが、模索しながら各国を回っています。

– これから日本を担う若者にどうなってほしいですか。

増田 インターネットが普及した今、家の中でも世界情勢は分かりますが、現実をリアルに感じることとは大きくかけ離れています。例えば、海外の情報はすぐに入手できますが、匂いや温度までは分かりませんよね。リアルな場所で生きて、たくさん考え、コミュニケーションを取るのが人間です。なので若い人たちには、恐れずに世界を見て、自分と違う価値観をもっと感じてほしいと思います。それはいつでも遅くはありません。今日が無理なら明日でもいい、もちろん5年後でも10年後でもいいんです。僕は50歳になってから、こうやってニューヨークに来ましたからね。

村主 増田さんは見た目もお若いですし、一緒にいても50歳だと感じることはありません。僕からすると、そこまで成功した人が、50歳になって移住して、リスクを取って生きていくということは、本当にすごいことだと思います。

増田 今の若い世代はすごく頭が良くて、様々なことを計算して人生設計をされていると思いますが、計画通りにいかないのが人生です。失敗が良い経験になるということがきっとありますので、失敗を恐れないでください。僕がもし、20代でニューヨークに来ていたとしたら、きっと1年かかっていたであろうことを、今の僕なら1ヶ月でできると思います。それはこれまでの経験があってこその結果だと思います。今は色んな経験を引き出しに入れていく期間だと思って、自分の足で一歩踏み出してみてくださいね。

村主 今は多くの選択肢がありますので、海外に行くことが全てではありませんが、どんどん動いていくべきだと思います。言い訳を続けていくと、結局何もできない大人になってしまいます。挑戦したいことがないよという方も多いかもしれませんが、目先の小さいことでいいので何か新しいことにチャレンジしていただければなと思います。

お話を伺っていると、好きなことから考え方に至るまで似ているところがあるお二人。そんなお二人にしかできないことがきっとあると思います。増田セバスチャンさんと日本寄付財団の今後の化学反応がとても楽しみです!