私たちは日本国憲法において「基本的人権」が保障されています。しかし、人権とは具体的にどのような権利を指すのか分からないという人もいるのではないでしょうか。人権を尊重し合える社会を実現するために必要なことは何か、あらためて確認しましょう。

人権は全ての人が生まれながらに持つ権利

人権とは全ての人が、人種や国籍、性別などに関係なく、生命や自由の確保とともに、それぞれの幸福を追求するこ権利です。具体的にどういうことなのか、内容を見ていきましょう。

人間らしく生きる権利「基本的人権」

人間が人間らしく生きる権利「基本的人権」は、日本国憲法の3つの柱の1つに挙げられています。第11条において全ての国民に保障され、決して侵されない、日本国民の持つ永久の権利です。

基本的人権とは、自由権、平等権、生存権など、全ての人が生まれながらにして持っている権利のことです。

そのため、全ての人は自由で、優劣などなく平等であり、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を持っています。それは当然他者が奪うことはできないものであり、尊重するべきものです。

また、日本国憲法は人権尊重主義に基づき、第11条以下、個人が尊重されることや幸福の追求、法の下の平等、信教や学問の自由などを国民の権利として掲げています。

参考:日本国憲法 第十条~十四条|衆議院

世界人権宣言とは

世界人権宣言は「全ての人民と国とが達成するべき共通の基準」として、1948年、パリで開かれた国連第3回総会において採択されました。

二度の世界大戦、特に第2次世界大戦中の特定の人種に対する迫害や人権侵害などを経て、人権問題の重要性が高まったのです。

世界人権宣言は、世界で初めて人権保障の目標や基準を国際的にうたい、基本的人権を定めたものとなっています。

世界人権宣言により、世界平和を実現するためには、世界共通で人権を守るための意識、行動が必要であるという考えが明らかになりました。

参考:世界人権宣言(仮訳分)|外務省

参考:世界人権宣言「児童の権利に関する条約」|外務省

人権教育が必要とされる理由

文部科学省は、「人権教育は生涯学習の視点に立って行う必要がある」としています。子どもに行われる人権教育は、その基礎となるものです。では、人権教育がなぜ必要とされるのかを見ていきましょう。

人権について知るため

「人権とは?」「あなたが持っている人権は?」と尋ねられたら、明確に答えられるでしょうか。人権について考えるには、まず人権とはどういう権利なのかを知らなくてはなりません。

また、自分や他人の人権の尊重や、人権無視や不当な侵害といったさまざまな人権問題の解決を実践しようとするときには、個人の尊厳をはじめ、権利や自由などの概念、人権の現状や国際法など、人権に関するより多面的で具体的な知識が不可欠になります。

人権感覚を養うため

人権感覚とは、自分や他人の人権が侵害された場合に、不当であると感じる価値志向的感覚を指します。言い換えれば、人権が擁護され、実現されている状態を望ましく感じられるということです。

「感覚」を身に付けるには、知識だけでは十分とはいえません。「自分は一人の人間として大切にされている」と実感できてこそ、他人を尊重しようという気持ちや意志が芽生え、人権感覚が育っていくのです。

学校においては、「クラスの一人一人が大切な存在である」「誰の人権も侵害しないし、自分の人権も侵害されない」といった環境を整えることが重要とされています。

人権を守る気持ちや活動につなげるため

人権教育の目標は、「自分だけでなく他人の人権も尊重されなくてはならない」という意識を自然と持てる人間を育てることにあります。人権に関する知識や人権感覚を養い、自分や他者の人権を守ろうという意識や意欲が生まれれば、人権のための実践行動にもつながっていくでしょう。

また、人権の重要性や人権を守るとはどういうことなのかが分かっていなければ、他人だけでなく、自分の持っている「人間らしく生きる権利」にも考えが至らないかもしれません。

人権教育で大切な「4つの視点」

人権教育を行うにあたって、重要とされているのが「人権教育の4つの視点」です。「人権」を軸に、子どもたちがさまざまな面から学ぶことを目標としています。

教育を受ける権利の保障

全ての国民は、憲法第26条において「教育を受ける権利」を保障されています。加えて教育基本法第3条では、より具体的に「人種や信条、性別、社会的身分、経済的地位または門地(家柄)に関わらず、教育を受ける機会を均等に与えられなければならない」としています。

教育とは、学校の勉強だけではありません。社会の中でルールを守ることや助け合うこと、自立・自律することなど、人間らしく生きていくために必要な知識や意識を身に付けることも含まれます。まず、教育を受けることそのものが、すでに人権であるという「人権としての教育」が必要です。

参考:日本国憲法(条文抜粋):文部科学省

参考:第3条 (教育の機会均等):文部科学省

人権の大切さを感じられる環境

学校において人権感覚を養うには、「差別をしない」「人間は平等である」といった、一人一人が「自分も他人も大切にされている」と実感できる環境が大切です。

環境が重視されるのは、人権を尊重する環境に身を置くことで、自他の人権問題を解決せずにはいられないという「人権意識」が芽生えるとされているためです。また人権意識は、自他の人権を守るための実践行動にもつながると期待されています。

人権への認識や理解を深める

人権とは何か、人権を守るとはどういうことかという「人権についての教育」も重要です。人権の基本的な知識を学ぶことで、自分や他人に与えられている権利や、尊重しなくてはならない理由などをより深く考えるきっかけを得られます。

また、人権を尊重する気持ちを育てるには、知識だけでなく他者との関わりも不可欠です。日常の中で、自分以外の人間が何をどのように考えているかを知り、認め合うことで、自分の大切さとともに他人の大切さを実感できるようになるでしょう。

人権を尊重できる人材を育成する

人権教育の目的として、一人一人が人権を尊重し合う社会を実現するための人材の育成があります。豊かな人権文化を築いていくには「人権のための教育」として、以下のような多様な力や資質が必要とされます。

・批判的思考力や分析力などの知識
・コミュニケーション力やプレゼンテーション力などの技能
・個人の尊厳や他者の人権を尊重する意欲や態度
・多様性に対する寛容と肯定的評価など

学校における人権教育は、こうした能力を高め、次世代を担っていく子どもたちが社会の一員となるための基盤作りにほかならないのです。

家庭でもできる取り組み

人権教育は、生涯学習の視点に立って行うことが望ましいとされています。学校だけでなく、家庭でも、親から子へ人権教育の取り組みを実践してみましょう。

人権について話し合う

他人を思いやり、大切にする気持ちは、子ども自身が自分を大切に思うことで生まれます。人権意識の源となる自尊心や他者を尊重する気持ちを養うために、親は愛情を持って接することが大切です。

また、子どもの話はきちんと聞くことを心がけましょう。「自分の話を聞いてくれた」と実感することで、子どもは自分が親にとって特別な存在であり、家庭の中に居場所があると安心できるだけでなく、自尊心も高まります。

家族の間にお互いを尊重する気持ちがあれば「人権とはどういうことか」も理解しやすくなるはずです。普段から子どもにも人権があること、人権を守るにはどうしたらよいかなど、話し合う機会を持つようにしましょう。

お手本となる行動を

親は子どもに対して、どんな子も平等であり、いじめや差別は決してしてはならないことだと、日常のコミュニケーションの中で伝え続けていく必要があります。

自分の子どもや、友人が無意識に偏見や差別的な発言をしている場面に遭遇したら、すぐに「それは人として許されないこと」「一人一人が大切な存在であること」を伝えてあげましょう。

自分や他人の人権を尊重できる子どもになってほしいのであれば、まず親がお手本となるような行動をしなくてはなりません。人権教育を行うためには、親自身も、自分の考えや行動を問いただしながら、子どもと向き合っていく必要があります。

まとめ

人権は全ての人が生まれながらに持ち、誰にも奪えない「人間らしく生きる」権利です。人権教育は、同じ社会に暮らす人々がお互いの人権を尊重し、存在を認め合う意識を持つために不可欠といえるでしょう。

将来、社会に出ていく子どもたちにとって重要な基盤となるはずです。 学校や家庭はもちろん、今を生きる大人たちも、人権について考え、子どもたちに手本となる姿勢を見せる意識を持つ必要があるでしょう。