SDGs(持続可能な開発目標)において、『農業』は食料生産・供給、環境、雇用などの複数要素を持ち合わせることから、目標達成への高い貢献が期待されています。SDGsと農業の関わり、目標達成に向けて必要なことは何か、確認していきましょう。

SDGsと農業の関わりとは

SDGsは、持続可能な社会へシフトしていくための国際目標です。2030年の達成を目指して、各国でさまざまな取り組みが行われています。17の目標と169のターゲットには、農業が関わっている内容も少なくありません。

参考:SDGsとは?|外務省

SDGsにおいて重要なポイント「食」

「食」は人間が生命を維持し、活動するのに必要不可欠なものです。SDGs1「貧困をなくそう」、SDGs2「飢餓をゼロに」など、SDGsでも食の充実がポイントになっています。

新型コロナウィルスの世界的流行の影響もあり、2020年時点で飢餓に苦しむ人は世界人口の10人に1人にあたる最大約8億1100万人と推定されています。2030年の目標達成のためには、農業の担う役割も大きいといえるでしょう。

これからの農業に求められるのは、生産性の向上や、災害への適応など持続可能な食料生産の確保を可能にするレジリエント(強靭)な農業の確立です。

参考:国連報告書: パンデミックの年に世界の飢餓が急増|国連WFP

SDGs達成に向けて農業で行うべきこととは

SDGsの達成には農業の関わりが不可欠です。具体的に農業でどのようなことを行うべきなのかを見ていきましょう。

食料を生産・供給する

農業の役割としてまず挙げられるのが、食料の生産・供給です。しかし、SDGsを達成するには、生産量や作物の質など、安定した供給ができる持続可能な食料生産システムを確立する必要があります。

生産量の増減は価格にも反映されるため、誰もが手に取れる価格を維持することも重要なポイントの1つといえるでしょう。

また、食料問題を改善するには、食料を生産するだけでは不十分です。飢餓状態にある人々に確実に届けなくてはなりません。そのためには、流通の仕組み作りや、輸送のためのルート、インフラ整備など、さまざまなハードルを越える必要があるでしょう。

環境を守る

農業は人間が行うことですが、自然がなければ成り立ちません。また、環境はそのまま作物の質、生産量にも関わってきます。つまり、人間が環境に配慮しながら農業を行うことが大切なのです。

農業は、SDGs15「陸の豊かさも守ろう」にも関わりがあります。手つかずの自然は美しいものですが、人間が住むには適さないこともあるでしょう。

農業によって人間が利益を得ながら、環境を整備したり保持したりしていくことが必要になります。人間と自然が共存するための方法ともいえるでしょう。

雇用を生み出す

農業の役割の1つに「雇用を生み出す」ということが挙げられます。

しかしながら、雇用を生み出すだけでは不十分といえるでしょう。途上国では子どもの労働や低賃金などの問題が存在しているのが現状です。

持続可能な農業を実現するためには、十分な所得を得られる仕組みづくりが必要といえます。実現できれば、後継者不足問題の解決や経済効果にもつながるでしょう。

持続可能な農業のために

SDGsの理念に沿った「持続可能な農業」とは、具体的にはどのようなものなのでしょうか?将来を見越した国や農業従事者の取り組みを見ていきましょう。

土地を集積・集約し、安定した食料供給を行う

SDGsにおいて、農業に求められることは安定した食料供給を行うことでしょう。飢餓に苦しむ途上国だけでなく、食料自給率の低い我が国でも考えるべき課題の1つです。

持続可能な農業を実現する有効な方法の1つとされているのが、土地の集積や集約です。

集積は、農地の所有や借り入れによって農地面積を拡大することを指します。一方、集約は農地の利用権の交換などによって、農地の分散を解消し、連続的な農作業が可能です。

スマート農業で効率化

スマート農業は、センサーやデータ、ロボットなど、IT技術や新型のインフラを利用した、新たな農業形態です。これまでは経験に頼っていた多くの作業を効率化することで、農業の省力化や生産性の向上が期待できます。

決まった人しか作業できない状態は、負担が大きいだけでなく、継続が難しいのがデメリットです。

スマート農業は属人化の解消に役立ちます。また、収穫や作物の選別も可能なので、人件費などのコストや廃棄の削減にもなるでしょう。

農業の将来を託す人材を育成

農業は、SDGs8「働きがいも経済成長も」、SDGs9「産業と技術革新の基盤をつくろう」にも深く関連しています。これらの目標の達成を目指すことで、人材育成にもつながるでしょう。

スマート農業は効率化だけでなく、新たな雇用を促進し、農業の将来を託す人材の確保にも期待できます。AIやIoT関連の人材が農業に関わってくる可能性があるためです。

農業従事者側としては、希望者を受け入れ、育成していくシステムを整える必要があるでしょう。

SDGs×農業の取り組み

国内では、SDGsの理念に沿った持続可能な農業を目指してさまざまな取り組みが行われています。具体的な取り組みの内容を確認していきましょう。

みどりの食料システム戦略

「みどりの食料システム戦略」は、食料の生産力向上と持続性の両立をイノベーションで実現することを目標に、農林水産省によって策定されました。

  1. 再生可能エネルギーを利用するなど「資材やエネルギー調達における脱輸入・脱炭素化・環境負荷軽減の推進」
  2. スマート農業や資材のグリーン化など「イノベーション等による持続的生産体制の構築」
  3. データやITの活用による加工・流通の適正化など「ムリやムダのない持続可能な加工・流通システムの確立」
  4. 食品ロスの削減など「環境にやさしい持続可能な消費の拡大や食育の推進」

この4つを柱としたサイクルを回すことで、雇用の増大、地域所得の向上、豊かな食生活の実現を目指します。

参考:みどりの食料システム戦略|農林水産省

GAP認証

SDGsへの注目によって、地域や農協などで取得の動きが高まっているのがGAP(Good Agricultural Practices:農業生産工程管理)認証です。

農業における食品安全・環境保全・労働安全などの持続可能性を確保するための生産工程管理の取り組みを指します。競争力の強化や品質の向上など、消費の面で他と差別化を図るのにも役立つでしょう。

GAP認証は、消費者にとっては「安全な食べ物を食べたい」というニーズに応えるものです。一方、生産者においては担うべき責任の証となるでしょう。

参考:農業生産工程管理(GAP)とは|農林水産省

環境保全型農業

農業は化学肥料や農薬の利用によって効率がアップし、生産性が向上したという一面もあります。しかし、近年では過度の効率追求や資材の不適切な利用・管理によって、環境への負荷が懸念されるようになってきました。

そこで、農業の持つ自然循環機能の維持と持続的な生産活動を推進しながら、環境負荷の低減を目指す環境保全型農業への取り組みが推奨されています。

環境保全型農業の例として挙げられるのが、家畜の排せつ物や野菜くずなどをたい肥化して土作りに利用する、アイガモを水田に放して害虫や雑草を食べてもらう、休耕期間にレンゲなどを栽培してそのまま土にすき込むカバークロップ(緑肥)の利用などです。

参考:環境保全型農業の推進|農林水産省

まとめ

農業は、世界中で解決すべき食料問題をはじめ、環境保全や経済の活性化などさまざまな点に関わりがあり、今後はますます重要性が高まることが予想されます。

直接農業に携わらない人も、改めて食や農業の大切さを認識する必要があるでしょう。食料が自分のところへ届くまでに、どのように生産されて、流通のルートに乗ってきたのか、考えてみてはいかがでしょうか。