家の近くの河川や海が汚れていると感じたことはありませんか?水道からきれいな水が出る日本では実感しにくいかもしれませんが、河川や海の水質汚濁は対策が急がれる問題です。水質汚濁の原因や被害、すぐに始められる対策を紹介します。
水質汚濁とは?
『水質汚濁』というと、台風をはじめとした悪天候の後に茶色く濁った河川を思い浮かべるかもしれません。しかし、一見きれいな水でも水質汚濁に陥っている場合があります。水質汚濁とはどのような状態なのか、定義を知っておきましょう。
人間の活動で河川や海洋が汚れること
水質汚濁とは文字通り、河川や海・湖・沼などの水質が悪化して濁ることです。水が汚れたり悪臭やガスが発生したりするだけでなく、魚の大量死を引き起こすなど生態系にも影響を及ぼします。
水質汚濁の主な原因は、生活排水や工場排水・農業排水などが河川や海に流れ込み、水中の有機物や有害物質が増えることです。人間の生活様式の変化や、産業の拡大によって排水量が増えるのに伴い、水質汚濁の問題も深刻化してきています。
参考:開発課題に対する効果的アプローチ : 水質汚濁|JICA
自浄作用が追いつかないと水が汚れる
本来、河川や海・湖沼の水には『自浄作用』があります。虫や動物の死骸・木の葉や水に落ちた果実などの有機物は、水中のバクテリアによって無機物に分解され、自然に還っていきます。この働きによって、水は清浄な状態に保たれるのです。
しかし、有機物が増えすぎると、分解に必要な酸素が足りなくなります。リンや窒素をはじめバクテリアが分解しにくい物質や、プラスチック・重金属などには自浄作用が及びません。
水質汚濁は汚染の原因物質に対して、自浄作用が追いつかなくなったために起こる現象といえるでしょう。
水質汚濁の主な原因
水質汚濁の原因は、生活排水や工場排水など人間が使った後の水にあります。自浄作用が十分に働かず、水質汚濁が起こる二つの要因について詳しく見ていきましょう。
生活排水による「有機汚濁」
有機汚濁は、排水に含まれる有機物が原因で起こります。河川や海・湖沼にはもともと多種多様な有機物が存在しているものの、排水が流れ込むことによって有機物のバランスが崩れて水質汚濁が起こるのです。
バクテリアが有機物を無機物に分解するときは、水中の酸素を使います。しかし、有機物の量が増えすぎると酸素が足りなくなり、分解が十分に行われません。その結果、悪臭や水の着色といった現象が起こります。
酸素不足は水中の生物にも影響を及ぼします。汚れた河川の水面に、魚の死骸が浮いているのを見たことはないでしょうか?魚が死んでしまうのは水が汚いからではなく、水中の酸素が足りなくなるからなのです。
植物プランクトンの増加による「富栄養化」
窒素やリンなどの栄養塩類が過剰になった状態を、『富栄養化』と言います。栄養塩類は本来、湖沼や海洋の生態系を維持するのに必要です。しかし、増えすぎると栄養塩類を餌とする植物性プランクトンも増加し、水質汚濁の原因になってしまいます。
植物性プランクトンの増殖による現象として、池や湖沼の水面が緑色になる『アオコ』が有名です。特に水が移動しない湖や沼は植物性プランクトンが増えやすく、水面をマット状に覆うほど増殖することもあります。
海で見られる赤潮や青潮も、富栄養化による水質汚濁の一つです。赤潮はプランクトンの増殖、青潮はプランクトンの死骸を分解するために水中の酸素が大量に消費されることで起こります。
水質汚濁がなぜ問題なのか
水質汚濁には、見た目の悪化や悪臭の発生以外にもさまざまな問題があります。どのような問題があるのか、主な内容を知っておきましょう。
健やかな生活が阻害される
水質汚濁による健康被害として代表的なのは、水俣病やイタイイタイ病といった公害病です。これらの病は、有機水銀やカドミウムで汚染された水や海産物を長期にわたって摂取したことで発症します。
より身近な問題は、植物性プランクトンの増殖によって、水の味や臭いに異変が起こる現象です。湖沼から飲料用水を取得する場合、病気にかからなくても飲んだり料理に使ったりするには抵抗があるでしょう。
政府は水質汚濁を防ぎ、国民の健康を守ることを目的に『水質汚濁防止法』を制定しました。1970年の公布以来、改正を重ねながら、生活排水対策の推進や工場・事業所からの排水の規制、水質調査の基準などを定めています。
水産資源が減少する
赤潮や油濁(油による汚染)といった水質汚濁は、河川や海の生態系が乱れる原因となるだけでなく、漁業被害にもつながります。
赤潮の原因は、富栄養化によってプランクトンが急激に増殖することです。大量発生したプランクトンによって水中が酸素不足に陥ると、魚介類は生きていけなくなるため、水産資源の減少につながるのです。
一方、油濁は廃棄された油が河川や海洋に流出することで起こります。油に魚介類の生育が阻害されたり油臭くなったりするため、商品としての価値が下がってしまいます。油濁の影響を受けた魚介類は、水産資源として活用できないのです。
環境破壊につながる可能性も
水質汚濁は河川・海の濁りや悪臭を引き起こし、生活環境の劣悪化を招きます。水そのものだけでなく、水辺に暮らす生物の生態系や水質浄化のサイクルを乱すことにもつながる環境問題です。
ほかにも、汚染された水は周辺の土壌を嫌気化(酸素の少ない状態にすること)させたり、植物の根を腐らせたりします。植物は酸素不足になると全体が腐ってしまうため、自然環境への影響は大きいといえるでしょう。
普段の生活でできる水質汚濁の対策
わたしたちが排出する生活排水は、水質汚濁の原因になります。「処理場できれいにしてくれる」「自分が使う分くらい大したことはない」と他人任せにせず、できる対策から始めてみましょう。
排水口に食べ残しや油を流さない
食べ残しや野菜の切りくず、使用済みの油などを排水口に流すと、過剰な有機物が水とともに流れ出して水が汚れます。水切り袋や三角コーナーで細かいくずを受け止め、油は凝固剤や新聞紙を使って燃えるごみとして捨てましょう。
食器についたマヨネーズやドレッシング・鍋にこびりついたカレーなどの油汚れは、拭き取ってから洗うのがおすすめです。水質汚濁の予防になるだけでなく、そのまま洗うよりも短時間で汚れを落とせます。
みそ汁やスープといった汁物は作りすぎない、飲み物も飲み切れる分だけ注ぐといった、『残さない工夫』も意識しましょう。
洗剤類の使いすぎに注意する
洗濯用の洗剤は、生分解性の高い石けん成分や無リンのものを選びましょう。たくさん使えば汚れ落ちが良くなるわけではないので、適量を守ることも大切です。
洗濯洗剤だけでなく、食器用洗剤やボディソープ・シャンプーの使いすぎにも注意しましょう。たっぷりの泡は汚れがしっかり落ちそうに感じますが、過剰な洗剤成分は水質汚濁の原因になります。
また、大量の洗剤やシャンプーを使えば、洗い流すためにより多くの水が必要です。節水の観点からも、適量を使う方が環境にやさしいでしょう。
ごみ拾いのボランティアに参加する
街中の側溝や河川敷・海岸などにポイ捨てされたごみは、河川や海に流れ込むと水質汚濁や汚染の原因になります。地域のごみ拾い活動やごみ拾いボランティアにも、積極的に参加しましょう。
水質汚濁の予防だけでなく、景観の美化にもつながります。活動に参加する人たちと交流できるのも、ボランティアを始めることで得られるメリットです。
また、自宅周辺の側溝や排水路にごみや落ち葉がたまって流れが悪くなると、悪臭や虫の発生を招くことになりかねません。普段からごみ出しのルールを徹底し、清掃も小まめに行いましょう。
まとめ
水質汚濁は身近な環境問題の一つです。深く考えずに流した生活排水は、巡り巡って自分の生活に関わってくる可能性もあります。一人一人が真剣に考えて、対策をとらなければならない問題です。
いつでもきれいな水が使えるからと無関心でいれば、重大な環境破壊につながりかねません。小さなことでも個人にできる水質汚濁対策を実践していけば、大きな力になるはずです。
きれいな水を守るため、自分にできることから取り組んでいきましょう。