多くのアパレル企業では、『サステナブルファッション』への取り組みを強化しています。ファッション業界が環境に与える負荷は大きく、解決すべき問題が山積みなのが現状です。問題解決に取り組む企業の事例や消費者ができることを紹介します。
サステナブルファッションの基礎知識
サステナブル(sustainable)は、『持続可能』や『維持できる』を意味する言葉です。サステナブルファッションは、直訳すると『持続可能なファッション』という意味になりますが、どのようなファッションを指すのでしょうか?
サステナブルファッションとは?
環境省は、サステナブルファッションを『衣服の生産から着用、廃棄に至るプロセスにおいて将来にわたり持続可能であることを目指し、生態系を含む地球環境や関わる人・社会に配慮した取り組み』と定義しています。
ファッション産業は環境や社会に与える負荷が非常に大きく、次世代の地球環境や生態系を損なう恐れが指摘されています。地球や資源に限りがあることを前提に、『将来にわたって持続できるかどうか』がファッションにも求められているのです。
参考:環境省_サステナブルファッション
SDGsとの関連性は?
ファッション業界でサステナブルが注目された理由の一つに、『SDGs(持続可能な開発目標)』の採択が挙げられます。
SDGsは2015年の国連サミットで採択され、経済面・社会面・環境面において未だ解決されていない国際的な課題を17のゴールと169のターゲットで示したものです。目標の達成期限を2030年とし、先進国と発展途上国が一丸となって取り組む必要性を強調しています。
SDGsの目標12は『つくる責任つかう責任(持続可能な消費と生産のパターンを確保する)』がテーマです。『製品ライフサイクルで排出される化学物質や廃棄物の削減』や『再生利用や再利用で廃棄物を減らすこと』など、ファッション業界が解決すべき事項が多く盛り込まれています。
参考:JAPAN SDGs Action Platform | 外務省
ファッション業界が抱える問題
サステナブルファッションの重要性が強調されるのは、ファッション業界が抱える問題が大きいためです。ファッションは自然や動物、労働者の犠牲の上に成り立っているといっても過言ではありません。
増大する自然環境への負荷
ファッションと自然環境は一見無関係に思われますが、1枚の衣服を作るには多くの資源を必要とします。また、製造過程では大量の二酸化炭素や化学物質が放出され、自然環境の破壊や温暖化を助長する要因となっているのです。
環境省のデータによると、1枚の服が作られるまでに排出される二酸化炭素量は約25.5kg、消費される水の量は約2300lにも上ります。
その他、綿花の生産では大量の農薬や石油系の化学肥料が使用されるため、土壌汚染が深刻化しているのが現状です。さらに洗濯の際には、マイクロプラスチックファイバーと呼ばれる合成繊維が川や海に排出され、海洋生物の生態に悪影響を及ぼすことが指摘されています。
参考:環境省_サステナブルファッション
ファッションの犠牲になる動物
ファーやレザーの洋服を作るために、多くの動物が犠牲になっているのをご存じでしょうか?「食肉の副産物だから命の搾取ではない」と考える人もいるかもしれませんが、実際はファッションのためだけに犠牲になる動物が少なくないのです。
世界中の毛皮の多くは、毛皮工場で生産されています。劣悪な環境下で動物が大量飼育され、生きたまま皮や毛を取られるなどむごい殺され方をしている場合もあります。
そのためサステナブルファッションは、素材を見直すところから始めなければなりません。動物福祉の観点から、リアルファーを使わない『ファーフリー宣言』をするブランドも増えています。
劣悪な環境を強いられる労働者
最先端の流行を取り入れた低価格のファッションは、『ファストファッション』と呼ばれます。企業は賃金の安い発展途上国に工場を構え、さらに労働コストを削ることで1枚あたりの価格を抑えているのです。
多くの労働者は、衛生面や安全面の管理が行き届いていない工場で働いています。そこで働く人々は生きるためにお金を稼ぐのに精一杯で、労働環境が劣悪でも働き続けるしかありません。
一部では、幼い子どもが大人と同じように働かされる『児童労働』の実態もあります。消費者である私たちは、低価格の犠牲となっている労働者がいることを忘れてはいけません。
深刻化するアパレル廃棄
ファストファッションにより、私たちは流行の服を低価格で楽しめるようになりました。アパレル企業では大量仕入れ・低価格販売の弊害で、新品を廃棄する『廃棄ロス』が大きな問題となっているのです。
また、衣服のライフサイクルが短期化し、個人の服の消費量・廃棄量も増加の一途をたどっています。
環境省のデータによると、1人あたりの年間衣類購入枚数は約18枚、手放す服は約12枚、一度も着用しない服は約25枚です。お気に入りの1着を長く愛用するのではなく、1年経ったら捨てるのが当たり前になっていることが分かるでしょう。
大量生産・大量消費・大量廃棄は、環境や生態系に悪影響を及ぼします。廃棄焼却処分で発生する大量の二酸化炭素は、地球温暖化を加速させるでしょう。
参考:環境省_サステナブルファッション
問題解決に向けた企業の取り組み事例
ファッションを取り巻くさまざまな問題を受け、多くの企業がサステナブルの重要性に気付き始めています。問題解決に向けた国内アパレル企業の取り組み事例を紹介しましょう。
株式会社良品計画
株式会社良品計画は、『無印良品』を中心とした専門事業の運営・商品開発・製造を展開する会社です。
繊維製品の自主回収とリサイクルに注力しており、2021年の年間回収量は66.9tにも上りました。一部の店舗では自治体と連携し、古着回収ボックスの設置やリサイクル関連イベントなどを開催しています。
回収された繊維製品は新たに染め直され、『ReMUJI』という商品に生まれ変わります。染め直しができない服は原材料に加工されるため、ほとんど無駄がありません。
参考:サステナビリティ | 株式会社良品計画
伊藤忠商事株式会社
大手総合商社の伊藤忠商事株式会社では、衣類の大量廃棄問題を解決するため、循環型経済のプロジェクト『RENU』を立ち上げました。RENUの軸となるのが、リサイクルポリエステル素材(再生ポリエステル)を使った商品開発です。
再生ポリエステルを作るには、使用済みのペットボトルを原料にするのが一般的ですが、RENUでは大量廃棄される衣類の端切れやポリエステルを含む古着を使用します。
『服から服をつくる』という循環型の技術は、環境への負荷を大きく低減させるでしょう。
参考:RENU®Project | サスティナブルなファッションをより自由に。
私たちがサステナブルを実現するヒント
一人一人がサステナブルに意識を向け、小さな行動を起こすことで世界は大きく変わります。環境への負荷を減らし持続可能な世界を実現するために、私たちがすぐにできる取り組みのヒントを集めました。
服はリユース&シェアで楽しむ
リユースとは、まだ使えるものを繰り返し使うことを指します。新品を購入するのもよいですが、リサイクルショップや古着屋、フリマアプリなどで、お気に入りを探してみるのも一つの方法です。
廃棄量が減る上、購入者は新品を買うよりも安く服が手に入り、出品者は販売利益が得られます。
近年は若年層を中心に、『洋服のシェアリング』も注目されています。主にネットを活用した服飾品のレンタルサービスで、飽きて手放すといった無駄がなくなるのがメリットです。
正しく手入れをして長く使う
今ある服を大切に使うことは、サステナブルの取り組みそのものです。洋服は手入れ方法によって寿命が大きく変わるため、『洗濯表示』を必ず確認して正しい手入れを行いましょう。
例えば、素材が綿や麻の洋服は洗濯機で洗えますが、カシミアやウール、テンセルは手洗いが基本です。次のシーズンまで保管する場合はクリーニングに出し、ビニールカバーを外して影干しをしましょう。
他にもハンガーの選び方やアイロンの温度など、ちょっとした部分にこだわることで、洋服がより長持ちします。
国際認証・環境ラベルの製品を選ぶ
環境・社会・経済に配慮された製品には、『国際認証』や『環境ラベル』が付与されています。洋服がどのような基準で作られているのかを理解して買うことは、持続可能な社会の実現につながるでしょう。
代表的なラベルの一つが、『オーガニックテキスタイル世界基準(GOTS)』です。オーガニック繊維製品の基準で、原料から製品までの全工程が第三者によって検査・認証されているのが特徴です。
『環境ラベル』は製品やサービスの環境情報を購入者に伝えるもので、環境に考慮された商品を選ぶ際の手助けになります。環境省では『環境ラベル等データベース』を公開しているため、買い物前にホームページをチェックしてみましょう。
参考:環境省_環境ラベル等データベース
まとめ
衣類の流通プロセスでは多くの資源が使われ、多くの有害物質や二酸化炭素が排出されています。動物がファッションの犠牲になったり、過酷な労働環境で働く人々がいたりする現実を私たちは知る必要があるでしょう。
サステナブルファッションへの取り組みは企業だけでなく、私たち個人にも求められています。人々の意識が高まれば、サステナブルファッションがごく当たり前になるかもしれません。