このたび、特定非営利活動法人オン・ザ・ロード一般財団法人日本寄付財団の2021年度助成事業の助成先に選ばれ、オン・ザ・ロード理事長の高橋さんと日本寄付財団代表理事の村主さんとの対談が実現しました。第1回目はオン・ザ・ロードの活動についてお二人に語っていただきました。

オン・ザ・ロードについて

村主 高橋さんはこれまでたくさんの著書を出されているので、読者の皆さんもご存知の方は多いと思いますが、現在はどのような活動をされているのかお聞かせください。

高橋 僕は今オン・ザ・ロードという団体で、ワールド・ドリーム・スクールを展開しています。世界中の難民キャンプやスラムの子どもたちに、オンライン授業を通じてみんなが夢を叶えてお金を稼げるようになるまで応援する、という学校をやっています。

“どうしてこんな国に生まれてしまったのだろう?” そんな気持ちになっている子どもたちを何とかしたいという思いがベースにあります。教えたり教えられたり、一緒に習ったりして、世界中の子どもたちが夢を追いかけながら友達になるって素敵ですよね。そんな関係を『夢の幼なじみ』と呼んでいます。

村主 団体の設立にはどのような背景がありますか? 

高橋 昔、僕が世界を旅していた頃、インドのガンジス川沿いのバラナシというエリアに、不自然に手足のない子どもたちがたくさんいてビックリしたんですよね。貧困層の人たちは物乞いをする人が多いのですが、大人より子どもの方がお金をもらいやすいんです。そこで、少しでもお金を集めたい親が、よりかわいそうな感じを出すために子どもが0歳の時に石で手足を潰したと聞いて、この状況をどうにかしたいという気持ちになりました。

インドにはカースト制がありますが、この子たちはアンダーカースト*という出生届すら出ていないような子どもたちです。けれど、ある程度読み書きや計算ができれば、カーストの中に入り仕事に就ける可能性も出てくるかもしれないとのことでした。それならば学校を作ることにも意味があるのではないかと思い、学校建設に乗り出しました。

*不可触民:カースト制度の外側にあって、インドのヒンドゥー教社会における被差別民である。総数は約2億人と推計されている。-Wikipedia

村主 それが現在の活動の原点なんですね。インドでの学校建設の費用はどうされたんですか?

高橋 土地と建物で300万円ほどかかったのですが、帰国後友達に10万円ずつ出し合わないかと持ちかけて30人を集めることに成功し、さらにボランティアを募って80人を超える方が集まってくださり、学校建設が実現しました。その後少しずつ寄付をしてくれる人が増えてきたので、その受け皿としてNPO法人を作ることになりました。

村主 そうして作られたオン・ザ・ロードという団体名には、どのような意味や思いが込められているのでしょうか?

高橋 現場で感じたことを大切にしたかったんですよね。ヒッピー的な言い方で、keep on the road とか back on the roadという言葉があるのですが、これは現場にいるとか路上にいるというような意味です。また、現場から離れてしまったところから元いた場所に戻ってくることを  back on the roadと言ったりもします。世界を前にすると、どうしても管理的なところに意識が向きがちなので、本当に子どもたちが喜ぶことは何かを考え、常に現場にいようという思いで付けました。

今後の展開について

村主 今後の活動について決まっていることがあればお聞かせください。

高橋 2025年に世界中の子どもたちを一つの船に乗せて世界一周する旅を計画しています。リアル It’s a small worldを実現するイメージですね。子ども時代に世界中の子どもたちが仲良くなることが世界平和にきっと繋がっていくと思うんです。

村主 知らない子ども同士が旅をするんですか?それはすごいですね。

高橋 とてもドラマチックなことのひとつは、子どもたちの間での共通言語が何語か分からないということです。その点はコントロールしないでやっていきたいなと考えています。児童心理学者や言語学者とも連携して、エビデンスやデータをしっかり取って今後のためにみんなが使えるようにしたいですね。いくつかドキュメント映画を作りながら実験の学校みたいな雰囲気でやれたらなと思っています。

村主 お金の面など、どのように運営されるのでしょうか?

高橋 例えば table for two のように、富裕層の方に子どもたちのお金を負担してもらう方法が取れればいいなと思っています。自分たちの船に世界の子どもたちが乗っているというのは夢がありますよね。

村主 チャリティーの要素を含んだクルーズ旅行というのはとても面白いと思います。今進めているプロジェクトの中で、新しい国などはあるのでしょうか?

高橋 ソマリアの刑務所の中に図書館を作ろうというプロジェクトが進んでいます。刑務所にはWi-Fiがないので、本の影響力はとても大きいですよね。ソマリ語の書籍を集めるのは結構大変でした。

また、Wi-Fiが入っていない地域ではオンラインスクールができないので、シルクロードを周りながら移動図書館をやるのはどうかという案も出ています。できればキッチンカーを引き連れて、日本のシェフを交えてその国との食のコラボもやってみたいですね。

村主 ワクワクする内容の活動が今後も目白押しですね。今回日本寄付財団が支援をさせていただくことになりましたが、助成金の活かし方についてはどのようにお考えでしょうか?

高橋 震災で外で遊べない子どもたちのために、福島にインドアパークを作ったのですが、そのときにスラックラインを始めた子が、今はカンボジアのスラムでそれを教えています。大会を目指していた頃よりも、現地の子どもたちに喜んでもらうことにやりがいを見出しているんですよね。子どもたちにとって、夢を叶えたいということはもちろんあると思いますが、学んだことで人の役に立てることに深い喜びがあるんだなと実感しました。

村主 たとえ子どもたちが大会で優勝できなくても、そこから次の世代へ広がっていくと、また別の世界が待ち受けているんですね。

高橋 ”覚えたことを今度は教える側へ” そのようなクラスを運営していくために、助成金を活用していきたいと考えています。具体的には、フィリピンで英語を学んだ若者が、今度は先生となり、別の地域の若者に英語を教えるといったクラスを計画をしています。2021年は各国ごとの支援を中心に行なってきましたが、2022年は『夢の幼なじみ』をより意識し、横のつながりを広げていきたいと考えています。

村主 普通このような活動においては、目の前の子どもたちを助けたいと思いがちですが、次の世代のことまで考えるというのはとても新しい視点だと思います。今後のオン・ザ・ロードさんの活動を楽しみにしています。

ビックリ箱のように次から次へと楽しいアイディアが出てくる高橋さん。次回インタビューでは、そんな高橋さんの魅力について迫っていきたいと思います。