このたび、世界的デザイナーであるコシノジュンコさんが日本寄付財団特別名誉大使に就任され、コシノさんと日本寄付財団代表理事の村主さんとの対談が実現しました。

特別名誉大使就任について

村主 今回、コシノさんに特別名誉大使をオファーする際に、”僕たち日本寄付財団は、世界中のあらゆる社会課題を解決するために本気でやっていこうと思っていますので、是非ご協力いただけませんか?”とお声がけさせていただきました。特別名誉大使の就任にあたって、コシノさんご自身はどのように感じていらっしゃいますか?

コシノ ヨーロッパやアメリカなどでは、寄付は社会的に認められているものですよね。良いお金の使い方というのは、このように人を生かすことだと思っていますので、日本人の寄付への関心が低いことについて、私はずっと不思議に感じていました。そうした中でまだお若い村主さんが、寄付に対して理解を示し活動されていることは、本当に素晴らしいことだと思っています。私はまだまだですけど、これから頑張ってやっていきたいです。

村主 コシノさんは日本を代表する方ですし、知名度はもはや世界的ですので、まさか引き受けてくださるなんて思ってもみませんでした。

コシノ やはりご縁って不思議なものですよね。私のお店の目の前に、村主さんのオフィスがあったことがきっかけではありますが、初めてオフィスに伺ったとき、飾られているアートのコレクションにびっくりしたのを覚えています。

村主 このわずかな距離に僕たちがいたということは、確かにすごいご縁ですよね。

コシノ ご縁というのは自分から探し求めるものではなくて、糸が引いてくれるものだと思っています。アートではなく別のお仕事でお会いしていたら、今のような関係ではなかったのかもしれません。ですので、私たちの出会いはアートが繋げてくれたのだと感じています。

社会課題に対する思いについて

村主 僕が社会課題に意識を向け始めたきっかけは、日本の当たり前の環境が世界で通用しないと感じたことです。また、実際に活動していく中で、日本においてもその豊かな環境の裏に埋もれてしまった人がいるという事実も知り、それを何とかしたいという思いを持つようになりました。コシノさんが社会活動へ参加されたきっかけには、どのようなものがありますか?

コシノ 東日本大震災がきっかけですね。2011年に放送されたNHKの連続テレビ小説”カーネーション”の宣伝のためにラジオに出演する予定だったのですが、放送が地震の直後と重なったため、そんな状況ではなくなってしまったのです。そんな中で、私にできることは一体何だろうと考えるようになりました。

村主 東日本大震災当時、具体的にはどのようなことをされたんですか?

コシノ 演歌やクラシックなど、様々なジャンルの出演者を集めてイベントを行いました。そのチケットはすぐに完売しましたし、ありがたいことにホールも無料で貸していただけました。こういった活動は、自分が出演したいという思いでできてしまうので、犠牲といった観念はないんですよね。ですので、社会活動に携わることは私の使命ではないかと思っています。

村主 そのときの活動は今でも続いているのでしょうか?

コシノ コロナ禍で一時中断したものの、未だに継続していますよ。当時寄付をしたお金で学校が建てられたのですが、親を亡くした幼い子供たちが今では大学生になっていて、なんとも感慨深いです。

3.11.塾   「全音楽界による音楽会」

URL: http://www.311juku.jp/311charityconcert/

被災し、親を亡くした子どもたちをどうにか救おうと、有志の人々のエネルギーとサントリーホールさんのご厚意で、第一回目のチャリティコンサート「音楽界による音楽会」が震災後の四月に開催されました。

震災から11年が経過し、子供たちも成長し社会人として活躍している卒業生も増えてきました。「自分が支援してもらったので、自分も将来社会に貢献したい」と言ってくれる子供がたくさんいて、社会の力になってくれると信じています。

コシノ 今ってスマホで多くのことが解決できてしまう時代ですよね。だから少し冷めている感覚の方が増えているように感じています。SNSのおかげで、人に会わなくても会った気分になれますし、なんだか世界を制覇した気分にもなれてしまいますよね。けれど、やはり目で見ただけのことと実際に動いて体験することは全然違います。

村主 若い頃から様々なことに挑戦され、たくさんの苦労を乗り越えてこられたコシノさんだからこそ、とても説得力のあるお話ですね。僕も、社会課題に対して自分で考え動いてきた結果が、今の活動に繋がっていると実感しています。

コシノ 自分がどのような経験してそれをどう活かていくかが重要なポイントだと思います。そのように動いてくださる方が増えていけば嬉しいですね。

アートに対する思いやコシノさんの魅力について

村主 今、大分県の美術館で展覧会をされているとのことですが、そのきっかけは何だったのでしょうか?

コシノ コロナ禍で時間ができたので家を整理していると、昔美大を目指していた頃のデッサンが大量に出てきたんですよね。そのことがきっかけとなり、大分県立美術館で ”原点から現点” という過去から今に至るまでの集大成を展示させていただくことになりました。

村主 昔の作品を発見して、改めて見たときの感想はいかがでしたか?

コシノ ”今はもう描けない”  というのが率直な感想です。これこそまさに私の原点だと思います。飛行機を使えばすぐですし、ぜひ美術館へ足を運んで実際に見ていただきたいたいですね。

コシノジュンコ「原点から現点」

URL : https://www.opam.jp/exhibitions/detail/777

会場 : 大分県立美術館

会期 : 4月15日(金)~5月29日(日)

コシノジュンコの創造の原点でもある大阪・岸和田の高校時代に描いたデザイン画や装苑賞の受賞作から、60年代のブティックの風景、70年に大阪で開催された万博のユニフォーム、「対極」というコシノジュンコがファッションを通じて創出した世界観や大分・久住を本拠地に国内外で活躍するDRUM TAOとの仕事など、現在までの活動の全貌を紹介します。

コシノ 村主さんがアートにこだわる理由には、どのようなものがありますか?

村主 僕は昔から数学が得意で、全て計算できる世界にいました。ビジネスにおいても、計算や分析である程度できてしまいますよね。けれどアートは、数式で表現できないものだと感じています。例えば、この作品をなぜ良いと思っているのかを言語化できなかったり、同じアーティストでも作品ごとに見方が変わったりするなど、その不確定性な部分に魅力を感じているのだと思います。

コシノ アートって答えがないんですよね。答えがないからこそ自由でいられると思います。

村主 絵をパッと見たときに降りてきた感動というのは、論理では表せません。何だか脳をつかまれているかのような、直接的な感覚です。良いものに対する感動は、なかなか普通の生活をしていて味わえるものではありませんよね。

コシノ それは、数学をやってきた村主さんだからこそ感じられるのかもしれませんね。私は高校生の頃、画家になりたかったのにファッションを選んでしまったので、絵を描きたい、やはりアートは捨てきれない、という気持ちを常に持ち続けていました。

村主 コシノさんのそのバイタリティーは一体どこから来るのでしょうか?

コシノ 2021年に出版した書籍にも書いているのですが…

コシノジュンコ 56の大丈夫

失敗も逆境も力に変える、パワフルウーマン語録
ファッションデザイナーというカテゴリーにとどまらず、 世界を舞台に今なお第一線で輝き続けるコシノジュンコ。 アラウンド80になってなお勢いを増すエイジレスなパワーの源について、 自らの軌跡を語る数々の写真とともに語りつくした、珠玉の1冊。

コシノ 運動って”運が動く”と書きますよね。自分の運を動かすために運動は大事だと思っているので、私は週2回、ジムに通ってパーソナルトレーニングをしています。あとは年齢を言い訳にしないことですね。将来から見て今が一番若いですし、年齢よりも中身ややる気が重要です。ですので若くてやる気のある人は本当に素晴らしいと思います。

村主 僕は若い経営者の方たちと話す機会が多いのですが、自分の楽しみのためにお金を稼いでいる人が多いように感じています。そうではなくて、もっと社会や世界のために行動していくことを、自分が率先して示していきたいなと思っています。

コシノ 人に喜ばれることをするのが一番ですよね。この書籍のタイトル “大丈夫” の3文字には全て ”人” という文字が入っています。自分が楽しければそれでいい、ということではなくて、やはりみんなのために行動することが大切です。結局はそこに気づけるかどうかかなと思います。

村主 自分は今以上に社会を変えていきたいですし、若い経営者のお手本となるようになっていきたいですね。

コシノ せっかく色んな経験をしているのですから、それをシェアしていきたいですよね。自分で終わりにするのではなくて、若い人に新しい世界を見せてあげたいというのが、今回の展覧会にも繋がっていると思います。

今後の活動について

村主 日本寄付財団としては、やはり今の活動を世界中に広げて、救える国やお手伝いできる国を増やしたいという思いがあります。ですので、今年や来年以降はそのような活動をどんどんやっていこうと考えています。

コシノ 主な活動として、アーティストの支援などをされるのでしょうか?

村主 僕たちの活動は、社会課題の解決がベースにあるので、その一環としてアーティストの支援をさせていただくことはあると思います。今後の主な活動としては、各国との対話を増やしていくことを予定しています。コシノさんは、今後どのような活動を展開されるのでしょうか?

コシノ 大分県での展覧会は5月29日(日)で終わってしまうのですが、できることなら巡回展という形で続けたいですね。まだ何も決まっていませんが、やはり東京でもできればなと考えています。来年は今の勢いを活かして、さらに突き進んでいきたいなと思っています。こうやって、誰にもできなかったことをたった一人でやっていくことこそが、世界に繋がっていくのかなと感じています。

お二人の行動のベースに共通して存在するのは、人のために動こうということ。そんな思いを大切にされているコシノさんだからこそ、日本寄付財団の思いに寄り添うことができるのではないでしょうか。バイタリティー溢れるコシノさんの特別名誉大使としてのご活躍を楽しみにしています。