日本で貧困が深刻化していると聞いて、あなたはどう思うでしょうか。物価の上昇やなかなか賃金が上がらないといった不満はあっても、生活はできるとなれば、あまり身近に考えられないかもしれません。まずは日本における貧困の現状から確認しましょう。

日本における貧困の現状

「貧困が増えている」といわれても、ピンとこないかもしれません。そもそも、GDP(国内総生産)世界第3位、経済大国とも呼ばれる日本で、なぜ貧困が問題になっているのでしょうか。「目に見えにくい」とされる日本の貧困の現状を見てみましょう。

相対的貧困と絶対的貧困

「貧困」というとまず、住む場所や食べるものがなく、飢餓と病気に苦しむ途上国の人々が思い浮かぶのではないでしょうか。このような「絶対的貧困」は、国や地域の生活水準に関係なく、生きていくための必要最低限を満たせない状態とされています。

しかし日本では、見て明らかな絶対的貧困より「相対的貧困」が多いとされています。相対的貧困とは、国や地域の生活水準と比較して貧しい状態です。

目安として、年間の所得が等価可処分所得の中央値(貧困線)に満たない場合に「相対的貧困状態にある」とされます。

相対的貧困は、一見すると分かりにくく「見えない貧困」とも呼ばれ、対策や支援が急がれているのが現状です。

参考:世界の貧困に関するデータ|THE WORLD BANK

参考:令和3年 国民生活基礎調査(令和元年度)の結果から グラフで見る世帯の状況|厚生労働省

OECD加盟国の中でも相対的貧困率は高い

日本の相対的貧困率は、世界から見ても深刻なレベルです。

OECD(経済開発協力機構)加盟国の中でも貧困率が高く、G7(先進7カ国:日本、アメリカ、ドイツ、イギリス、イタリア、フランス、カナダ)の中では、アメリカに次ぐ高さです。

相対的貧困率は子どもの貧困率につながります。OECDの統計では、日本の貧困状態にある子どもの割合は、OECDの基準よりも高いという結果になりました。

参考:OECD経済審査報告書 日本(2017)|OECD

日本の貧困問題の原因は?

日本の貧困が社会問題になるほど深刻化した原因は1つではありません。複数の原因が複雑に絡み合って、結果的に現在のような状況を招いてしまったと考えられます。主な原因として挙げられるものを見ていきましょう。

非正規雇用の増加

貧困の原因としてよく挙げられるのが、非正規雇用者の増加です。景気の後退・停滞に伴って、企業は雇用調整を容易に行える非正規雇用者を積極的に導入するようになりました。

2004年には非正規雇用者の割合は30%を超え、ピーク時(2019年)には38.3%を記録しています。2020年以降はやや減少していますが、2021年の時点で36.7%と、決して大きな変化があったわけではありません。

2020年の調査では、全年代で男性22.4%、女性54.4%が非正規雇用者という結果が出ています。注目したいのが、女性の非正規雇用の割合です。

男性の場合、いわゆる「働き盛り」の25~54歳は8.2~14.4%と低めですが、女性は同じ年代でも34.3~56.6%と格段に高くなっています。女性の方が貧困に陥りやすいとされる一因でしょう。

参考:非正規雇用の現状と課題|厚生労働省

参考:年齢階級別非正規雇用労働者の割合の推移|男女共同参画局

参考:非正規雇用労働者のうち,現職の雇用形態に就いている主な理由が「正規の職員・従業員の仕事がないから」とする者の人数及び割合(令和2(2020)年)|男女共同参画局

賃金が上がらない

日本の平均賃金が、1990年から2019年までの間に、ほとんど上がっていないことをご存じでしょうか。

2020年のOECDの報告によれば、日本の平均賃金は38.5万米ドル=日本円にして約443万円(1ドル=115円換算)となっています。OECD加盟国の平均49.2万米ドル=約556万円(同)より10万米ドル=約110万円以上も少ない計算です。

その間、日本では物価の上昇や消費税の増税もありました。名目賃金(給料の額面)に変化がなければ、実質賃金(名目賃金から物価の変動による影響を差し引いて算出する)は下がっていることになります。

実際、2020年の厚生労働省の調査結果でも、実質賃金が低下の一途にあるのが確認できます。

参考:平均賃金|OECD

参考:毎月勤労統計調査令和2年分結果速報の解説|厚生労働省

現役世代の減少

日本が抱える問題の1つが、2040年問題です。2025年に「団塊の世代」全員が後期高齢者となるのに続き、2040年にはその子ども世代(団塊ジュニア世代)が後期高齢者になることで、高齢者が3900万人を超えるとされています。

一方で、高齢者を支える現役世代は6000万人を割り込むと試算されており、現役世代1.5人で高齢者1人を支えることになるのです。

その兆候はすでに表れています。高齢の親の世話をするために、現役世代が仕事を辞めざるを得ない「介護退職」は一例といえるでしょう。また、現役世代の夫婦2人で、自分の家族と双方の親を支えなくてはならないという状況も増えてくるかもしれません。

参考:平成の30年間と、2040年にかけての社会の変容|厚生労働省

貧困が社会問題になる理由

貧困は、解決しなくてはならない社会問題とされています。貧困状態にある人が生活できないという問題だけでなく、日本という国の将来にも関わりかねないからです。

経済格差が広がる

経済格差(所得格差)の指標として挙げられるのがジニ係数です。所得の分布における平等性を表すもので、完全に平等に分配されている場合を0とします。1に近いほど不平等、つまり経済格差が大きいということです。

2021年の内閣府の報告によれば、日本のジニ係数は0.319となっています。2010年以降ほぼ横ばい状態が続いていますが、貧困が解消されず、今後現役世代の減少や非正規雇用者の増加が続けば、ジニ係数が上昇することが考えられます。

参考:選択する未来2.0|内閣府

子どもの将来が限定される

貧困は子どもの教育格差にもつながります。経済的な問題で必要な学用品が買えない、部活動に参加できないといった理由により、学校から足が遠のいてしまう子どもも少なくないでしょう。

また、子ども自身が「どうせ上の学校には行けないから」と諦めて、勉強に身が入らなくなるケースも見られます。

子どもが貧困によって将来の可能性を狭められてしまう事態は、本来あってはならないことです。十分な学歴がないために、低賃金の仕事にしか就けないとなれば、貧困の連鎖を生み出す恐れもあるでしょう。

納税や健康保険料の支払いといった社会的な義務を果たせないばかりか、それに伴う権利を受けられなくなる可能性もあるのです。

出生率の低下と高齢化に拍車がかかる

日本は少子化と高齢化が同時に進んでいる「少子高齢化社会」です。2021年時点で、すでに65歳以上の人口(29%)が、19歳以下(16%)の倍近くなっています。

このまま進行すれば、約40年後には日本の人口が約4000万人減少するにも関わらず、65歳以上の人口はほぼ横ばいという「高齢社会」を迎えることになるでしょう。

2021年の内閣府の報告によれば、若い世代の男性では、一定の水準までは所得が高いと有配偶者率も高い傾向があるという結果が出ています。また、独身者を対象とした「結婚しない理由」として、約29%が「結婚資金が足りない」ことを挙げているのです。

貧困によって現役世代が結婚できない状況が続けば、出生率の上昇は見込めません。将来的には、日本の人口そのものが減少することがほぼ確実になっている現状を改善する施策が必要でしょう。

参考:令和3年版 少子化社会対策白書|内閣府

参考:参考資料1 日本の少子高齢化はどのように進んでいるのか|財務省

貧困のない日本を目指すために必要なこと

貧困は今現在苦しんでいる人だけの問題ではありません。私たち一人一人が、貧困のない日本を目指して行動するときが来ています。小さくても、自分のできることから始めていきましょう。

貧困について一人一人が考える

貧困を解決するための第一歩は、一人一人が貧困の現状を知ることです。貧困によってどんな不利益を被るのか、どうすればよいのかを考え、周囲の人と共有してみましょう。

特に、相対的貧困にある人は「誰かに頼るのは恥ずかしいこと、迷惑なこと」と思っていたり、そもそもどこへ相談すればよいのかも分かっていないことが少なくありません。自分が発信元になることで、今現在困っている人へ必要な情報が届く可能性もあるのです。

自分にできる支援から始める

貧困家庭や子どもを支援している団体が近くにあれば、ボランティアとして参加してみましょう。例えば、貧困家庭の子どもに無償で勉強を教えたり、一緒に遊んだりするなど、自分のスキルや得意なことを提供するのも立派なボランティア活動です。

直接参加できなければ、寄金という形で支援してみましょう。活動資金を募っている支援団体は少なくありません。また、貧困家庭に届ける食料や衣類、学用品、おもちゃなど、支援団体が求めているものを寄付するのもよいでしょう。

まとめ

日本の貧困は、目には見えなくとも確かに存在しています。しかし、今貧困状態にある人は、声が上げにくかったり、どうすればよいか分からなかったりするのも事実でしょう。

当人たちだけでなく、日本の将来のためにも、貧困問題は解決しなくてはなりません。国の支援や貧困をなくすための取り組みをあてにするだけでなく、より近くにいる私たち一人一人が、できることから行動を起こしていきましょう。