世界中で問題となっている貧困の中でも特に深刻なのが、開発途上国に多く見られる極度の貧困状態です。食べるものやきれいな水にも事欠くほどの貧困問題は、なぜ起きるのでしょうか?現状や原因と併せて、個人に何ができるのかを考えてみましょう。

世界の貧困問題の現状を知ろう

貧困問題を考えるには、現状を知ることが必要です。貧困とはどんな状態を指すのか、世界でどのくらいの人が貧困状態にあるのかなど、世界中で何が起きているのかを見ていきましょう。

「貧困」の二つの捉え方

『貧困』には二つの捉え方があります。生命を維持することも困難な『絶対的貧困』と、周囲の平均的な生活レベルに満たない『相対的貧困』です。

絶対的貧困は開発途上国に多く見られます。衣食住が十分でないばかりか、医療や教育といったサービスも十分に機能していません。国そのものが貧しく、国民への援助もできないことが多いのです。

一方、相対的貧困は先進国に多く、『見えない貧困』とも呼ばれています。所得がその国の中央値に足りておらず、何とか生活はできるものの、娯楽や子どもの学校外教育などに充てるお金がないという状態です。

より深刻なのは「絶対的貧困」

世界銀行では1日の生活費1.9ドル以下を『国際貧困ライン』として、絶対的貧困を定義しています。2015年の統計によると、世界では約10人に1人が1.9ドル以下の金額で暮らしているとされています。世界人口の約10%が絶対的貧困の状態にあるのです。

同調査では絶対的貧困の85%が、南アジア地域とサブサハラ・アフリカ(アフリカでサハラ砂漠より南の地域)地域に集中しているとされています。

相対的貧困も解決しなくてはならない問題ですが、より深刻なのは絶対的貧困といえます。絶対的貧困にある人は必要最低限の生活水準に達しておらず、その日を生き延びることが精一杯の状態なのです。

参考:世界の貧困に関するデータ|世界銀行

極度の貧困状態にある人の半数は子ども

2020年にユニセフが発表した世界銀行との共同分析では、『極度の貧困状態にある人の半数が18歳以下の子ども』という結果が出ています。数にすると約3億5600万人です。

実際、開発途上国では5歳未満の子どもの約20%が、絶対的貧困の家庭で暮らしているという報告もあります。

世界の総人口の約1/3が子どもであることと照らし合わせると、生活力や体力で劣る子どもは大人よりも貧困状態に陥りやすいといえるでしょう。

参考:世界にあるこんな問題|日本ユニセフ協会

なぜ貧困問題が起きるのか

貧困問題はなぜ起きるのでしょうか?貧困問題の根本にある、国が貧しくなる原因から考えてみましょう。

人間による原因

貧困問題の原因の一つは、政治や紛争など人間が関わっている問題です。

例えばアフリカ大陸には豊富な資源があるため、本来なら資源を元手に豊かな国を作ることもできるはずです。しかし、一部の権力者が利益を独占し、国民には還元されないという独裁的な政治が行われている国が少なくありません。

権力者への反発や資源を巡る争い・民族間の紛争など、争いごとが起こると人々の生活は困難になります。働き手を失ったり仕事自体がなくなったりすれば、国の経済状態は基盤から揺らいでしまうでしょう。

自然による原因

異常気象や地震などの自然災害も、国が貧困に陥る原因です。

2008年、ミャンマーではサイクロン『ナルギス』で大きな被害を受けた貧しい農民の半数が、土地をはじめとした財産を売却せざるを得なくなりました。サイクロン後の借金を返済するためです。

また、カリブ海の島国・グレナダでは、2004年のハリケーン『アイバン』によって、GDPの約2倍にも及ぶ経済被害を受けています。

いつ起こるかも分からない自然災害は、開発途上国にとって大きなダメージになります。財産を失ったり田畑が壊滅したりしても、国からの援助はあまり期待できないのが現状です。

参考:
自然災害で年2,600万人が貧困状態に陥り、損失額は5,200億ドルに上ると世界銀行が分析|世界銀行
自然災害による途上国への影響:防災情報のページ – 内閣府

貧困問題に対する世界の取り組み

『貧困』とは単純にお金がないだけではなく、人間らしく健康的な生活ができない状態も指す言葉です。貧困状態の人々に対するインフラ・医療・教育への支援は、世界中で行われています。

生活環境を改善する「インフラ整備支援」

開発途上国の絶対的貧困をなくすには、物資などの直接的支援に加えて、国自体の成長を持続的に支援する必要があります。そのためには給水や電気・運輸・交通・通信といった、インフラの整備が欠かせません。

例えば、安定的な水の供給は優先的に整えたいインフラです。飲料水だけでなく農工業用の水をいつでも使えるよう整備することで、住民の生活環境の向上や農工業の発展が期待できます。

日本もベトナム全土の道路交通網整備、ブータンのIT化を実現した通信網整備など、世界各地の開発途上国にインフラ整備支援を行っています。

参考:
貧困削減と経済成長、インフラの役割|外務省
経済社会基盤(インフラ)への支援|外務省

命を守る「医療支援」

世界には、病気になっても適切な医療を受けられない人が数多くいます。年間590万人の子どもが5歳になる前に亡くなり、950万人が感染症で命を落としているのが現状です。

先進国でも健康保険制度が整っていないために、病院に行けなかったり治療費が払えなかったりという人はいるでしょう。しかし、開発途上国にはそもそも、医療を受けられる病院すらないことも多いのです。

こうした問題を改善するために、国だけでなく『国境なき医師団』をはじめ多くの民間団体が、医療の十分でない土地へ赴いて診察や治療を行っています。

参考:保健医療|事業・プロジェクト – JICA

未来を作る「教育支援」

貧困問題は教育にも影響を及ぼします。ユニセフによれば、2018年時点で約12人に1人が、学齢期でありながら小学校に通えていません。世界全体で見れば約5900万人で、半数以上にあたる約3400万人がサブサハラ・アフリカの子どもたちとされています。

子どもたちが未来を切り開いていくために、教育は不可欠です。読み書きや簡単な計算ができないために、安定した職業に就けない・必要な情報を得られないという不利益を被ってしまいます。

ユニセフをはじめとする支援団体は子どもたちに教育の機会を与えるために、井戸や清潔なトイレの他、学校を作るプロジェクトも推進しています。

参考:アフリカに教育支援が必要な理由 スクール・フォー・アフリカ レポート|日本ユニセフ協会

世界の貧困問題に一人一人ができること

世界の貧困問題に対して、わたしたちは何ができるのでしょうか?「自分だけが何かをしても変わらない」と思うかもしれません。しかし、小さなことでも一人一人の力を合わせれば、大きな変化につながる可能性は十分にあります。

貧困問題について学ぶ

「何かしたい」と思ったら、まずは貧困問題の現状を知るところから始めましょう。本を読んだり支援団体の活動報告を検索したりするのがおすすめです。

開発途上国と先進国が平等に取引した証である、『フェアトレード認証』ラベルのある商品にも注目してみるのも、貧困問題を考えるきっかけになるでしょう。

毎年10月6日の『国際協力の日』や12月5日の『国際ボランティアデー』などに、支援団体によるイベントが行われることもあります。余裕があれば、実際に開発途上国を訪れるスタディツアーに参加してみるのも一つの方法です。

大切なのは、学んだことを周囲の人に伝えることです。自分なりに学び次の人に伝えていく流れができれば、貧困問題について考える人が増えていくでしょう。

信頼できる支援団体に寄付をする

支援団体への寄付は、個人でもすぐにできる貧困問題への取り組みです。ユニセフをはじめとするさまざまな支援団体が、寄金や物資の寄付を募っています。

毎月決まった金額を寄付するシステムを取り入れているところもあるため、まずは自分が無理せずできる範囲で実践してみましょう。

ただし、お金を集めることだけを目的とする悪質な団体も、皆無とはいえません。活動報告をチェックして、信頼できる支援団体を選ぶのがポイントです。

まとめ

貧困には『絶対的貧困』『相対的貧困』という二つの捉え方があり、より深刻なのは絶対的貧困です。貧困にはさまざまな要因があり、完全になくすには長い時間がかかるかもしれません。

しかし、世界の国々や支援団体が、貧困問題の解決を目指して支援に取り組み続けています。諦めずに世界中の一人一人が貧困問題について知り、解決の方法を考えていくことが大切です。

現時点で貧困状態にある人たちはもちろん、全ての人が人間的で健やかな生活ができる世界を目指して学び、行動を起こしましょう。