ファッション産業の環境負荷が指摘され、サステナブルファッションに取り組むアパレル企業が増えています。サステナブルにはどのような意味があるのでしょうか?言葉が生まれた背景やSDGs(持続可能な開発目標)との関係性を見ていきましょう。

サステナブルファッションとは?

ファッション業界を中心に、サステナブルファッションに注目が集まっています。サステナブルという言葉は、近年多くの分野で注目されており、エコやエシカルと共通する部分もあります。

「サステナブル」の意味

サステナブル(sustainable)は『持続可能な』という意味で、『sustain(持続する)』と『able(〜できる)』からなる言葉です。サステナブルファッションは、『持続可能なファッション』が直訳ですが、いまいちピンと来ない人が多いかもしれません。

現在ファッション産業は、多くの課題を抱えています。製造過程での環境破壊や売れ残りの大量破棄などが深刻化し、地球の環境や生態系に悪影響を及ぼしているのです。

環境や社会に負荷をかけず、将来も継続できる製造方法や取り組みがファッション業界には必要といえるでしょう。

環境省ではサステナブルファッションを、『衣服の生産から着用、廃棄に至るプロセスにおいて将来にわたり持続可能であることを目指し、生態系を含む地球環境や関わる人・社会に配慮した取り組み』と定義しています。問題の多いファッション産業のシステムをみんなで変えよう、という取り組みです。

参考:環境省_サステナブルファッション

「エコ」や「エシカル」との違い


サステナブルと混同されやすい言葉に、『エコ』や『エシカル』があります。

エコ(eco)は『環境に優しい』の意味合いで使われることが多く、エコな取り組みは『環境に優しい取り組み』という意味です。サステナブルとの大きな違いは、環境に焦点が絞られている点でしょう。

エシカル(ethical)は、『道徳上の・倫理的な』という意味を持つ形容詞です。『エシカルな暮らし』や『エシカルな消費』と表現する場合、エシカルは『環境・人・社会などに配慮した』という意味になります。

意味そのものは異なりますが、サステナブル・エコ・エシカルの間には密接な関係があることが分かるでしょう。


なぜ今、サステナブルが注目されるのか?

サステナブルが注目されている理由は複数あります。地球に与える負荷が増大していることに加え、SDGsの採択や人々の志向の変化とも大きな関係があるようです。

地球環境や生態系への負荷


服の製造では大量の二酸化炭素が排出され、原料となる綿花の栽培では大量の水と農薬が使われます。ポリエステル製品からは洗濯のたびに微細な繊維が抜け落ち、川や海に流れ込んで海洋生態に影響を与えます。

安価なファストファッションは大量生産・大量消費・大量廃棄を常態化させ、環境への負荷を加速させました。

国連貿易開発会議(UNCTAD)は、ファッション業界が世界第2位の環境汚染産業であることを指摘しています。関連企業には一刻も早いサステナブルへの取り組みが求められているといえるでしょう。

参考:国連、ファッションの流行を追うことの環境コストを「見える化」する活動を開始 | 国連広報センター

SDGs(持続可能な開発目標)の採択


サステナブルファッションが注目されたもう一つの大きな理由が、SDGsです。2015年の国連サミットで採択された国際目標で、2030年を期限に各国が取り組むべき課題が17の目標と169のターゲットで示されています。

SDGs目標12の『つくる責任つかう責任』はファッション業界との関わりが最も深い目標の一つです。内容の一部を紹介しましょう。

  • 製品ライフサイクルを通じて化学物質や全ての廃棄物を管理し、大気・水・土壌への放出を削減
  • 廃棄物の発生予防・削減・再生利用・再利用により、廃棄物の排出量を大幅に削減


持続可能な社会を目指すには、製造者が環境や社会に対して責任を持たなければなりません。また、それを使う消費者も同様に、サステナブルを意識する必要があります。

参考:JAPAN SDGs Action Platform | 外務省

スローファッション志向の高まり

これまでは、最先端の流行を取り入れた低価格のファストファッションが若年層を中心に受け入れられていました。しかし近年は、スローファッション志向が増加傾向にあります。

スローファッションとは、お気に入りの服を長く大切に使う価値観のことで、ファストファッションの対義語にあたります。まさに、サステナブルファッションそのものです。

エステーの意識調査によると、『長く着られるお気に入りの服を少しだけ持ちたい』という人は38.1%で、コロナ前の32.7%から5.4ポイント増加しています。

また、『スローファッションを取り入れたい・既に取り入れている』という人は全体の57.3%でした。スローファッション志向の高まりとともに、サステナブルを意識する人は今後も増えていくでしょう。

参考:エステー 衣類への価値観に関する意識調査 新型コロナウイルス感染拡大後、「スローファッション」志向が向上 新しいファッションの価値観は「お気に入りを長く」

サステナブルファッションの具体例は?

ファッション業界ではサステナブルを実現するために、どのような取り組みを行っているのでしょうか?サステナブルファッションの基準は明確に決まっていませんが、サステナブルと判断できる取り組みや商品の事例を紹介します。

人や地球に優しい原材料を使用


サステナブルの条件の一つとして、人や地球に優しい原材料を使用していることが挙げられます。例えばコットンは、栽培の過程で大量の水と化学肥料、農薬を使用するため、環境への負荷や人体への影響が問題視されています。

水や農薬の過剰使用を控えた『サステナブル・コットン』や、植物系の再生繊維『キュプラ』など、環境に配慮した素材を使っているメーカーは、サステナブルへの意識が高いといえるでしょう。

生産者の人権が尊重されている


環境に優しい素材を使用していても、そこで働く人々の人権が尊重されていなければサステナブルとはいえません。

低価格を実現するため、多くの工場は安価な労働力を求めて発展途上国に進出します。労働法制度が整っていない国では低賃金・重労働は日常茶飯事で、劣悪な労働環境で命を落とす人もいるほどです。

一方、企業やブランドの中には、製品が作られる労働条件や環境を消費者に明示しているところもあります。

例えば、途上国の原料や製品を適正価格で取引きする『フェアトレード』という仕組みは、生産者の人権と生活を守ります。近年は、フェアトレードのアイテムを扱う専門ブランドが増加傾向にあるようです。

廃棄ロスを減らすシステムを採用


アパレル企業の多くは、セールを前提に仕入れを行います。大量の仕入れで売れ残りが生じ、新品のまま服が廃棄される『廃棄ロス』は深刻な問題です。

大量に仕入れて安価に売るという業界の商習慣を変えるため、多くのアパレル企業では廃棄ロスが極力出ないように、以下のような販売システムへの切り替えを行っています。

  • 受注生産システム・注文仕立ての採用
  • 余剰在庫・過去コレクションの販売
  • セールを前提としない在庫管理
  • 流行やシーズンにとらわれないデザイン

簡単にできるサステナブルな習慣とは?

ファッション業界でサステナブルが進む中、消費者である私たちは『服を選ぶ・着用する・手放す』のそれぞれの段階において、何を意識すればよいのでしょうか?

慎重に選ぶ


服を購入する際は「本当にそれが必要なのか?」を自分に問いかけましょう。クローゼットに似たような服はないか、流行に左右されずに長く着用できるかをじっくり考えて購入を決めるのがポイントです。

環境省のデータによると、1年間に1回も着用されない服は1人あたり25着にもなるそうです。デザインや価格だけで衝動買いをすると、廃棄ロスにつながる恐れがあります。

購入を決めた後は、商品ラベルやブランドのHPなどを見て、素材・生産ルート・ブランドストーリーを確認しましょう。

参考:環境省_サステナブルファッション

お気に入りを長く着る


手元にある1着をできるだけ長く着用することも、サステナブルな取り組みといえます。服は手入れ方法で寿命が左右されるため、お気に入りを長く着る工夫を取り入れましょう。

購入時は、縫製や生地が丈夫なものを選ぶことが大切です。洗濯時は、衣服に付いた洗濯タグをチェックして、素材に合った手入れを行います。

ほつれが出てきても処分せずに、お直しや染み抜きなども利用しましょう。プロに依頼すると高くつきますが、自分で直すよりも見た目と耐久性に優れ、思い入れのある1着がより長く使用できます。

家庭ゴミとして廃棄しない


まだ着られるものは『リサイクルショップや古着屋、フリマアプリなどで売却』し、着用できないものは『資源ゴミ』として分別します。

資源ゴミは、再資源化が可能なゴミのことです。古着や古布を含む大抵の布類は、自治体で資源ゴミとして回収が可能です。

一部のアパレル店舗では、店内に衣類回収ボックスを設置しています。回収された服は、服を必要としている人に届けられたり、燃料やリサイクル素材として活用されたりします。

まとめ

ファッション産業は、原材料調達から廃棄までのサプライチェーンにおいて、環境への負荷が極めて大きい業界です。

サステナブルファッションへの関心の高まりとともに、業界ではさまざまな取り組みを行っていますが、課題解決には消費者の一人一人の行動も欠かせません。消費者が環境や社会に配慮したアイテムを意識して選ぶことで、持続可能なよりよい世界の実現につながるでしょう。