犬や猫の殺処分に関するニュースを見聞きして、どうにかできないかと悩んだ経験はありませんか?殺処分をゼロにするには、国や自治体の取り組みだけではなく、一人ひとりの力も不可欠です。公的に実施している取り組み例と、個人ができることを紹介します。
殺処分ゼロに向けた環境省の取り組み
殺処分は対象にされる犬や猫はもちろん、携わるスタッフにも大きな苦痛を強いる行為です。国も将来的には殺処分ゼロを目指しており、環境省が主体となって取り組みを進めています。
環境省が立ち上げたプロジェクトの概要と、具体的な取り組み事例を見ていきましょう。
環境省のプロジェクト
2013年に、環境省では『人と動物が幸せに暮らす社会の実現プロジェクト』を立ち上げました。プロジェクトの目的は、殺処分ゼロ社会の実現です。
犬や猫の引取り数と殺処分数の削減については、以前より自治体の保健所や動物愛護センターが独自に取り組んできました。しかし自治体の努力だけは、限界があるのも事実です。
殺処分の現状や課題の分析・具体的な解決策の提案を国が主導することで、自治体の負担が軽減され、飼い主やペット業界への啓蒙活動も進むことが期待されます。
参考:環境省 _ 人と動物が幸せに暮らす社会の実現プロジェクト|ご挨拶
具体的な取り組みの内容
殺処分ゼロに向けた自治体の取り組みには、以下のような事例があります。
- 山口県下関市:教育委員会と連携した児童向け講演会『いのちの教室』開催
- 福岡県福岡市:飼い主対象の悩み事相談会『犬猫よろず相談』定期開催
- 神奈川県川崎市:将来ペットを手放すことが予想される人(主に高齢者)への早期対応
- 愛知県豊田市:飼い主のいない猫の不妊去勢手術
- 京都府京都市:譲渡候補猫の様子を自宅で閲覧できるインターネットライブ中継
- 愛知県岡崎市:飼い猫の不妊去勢手術をしたとき、無料でマイクロチップを装着
- 新潟県新潟市:ふれあい体験を通じた譲渡の促進
- 埼玉県:電子マネーの売上の一部を動物愛護活動に寄付する取り組み
- 千葉県:動物愛護ボランティアの公募
子どもへの教育活動や飼い方の相談・不妊去勢手術の助成は、自治体に引き取られる犬猫の減少につながる活動です。譲渡動物の公開・ふれあい体験などは、飼い主を見つけるために行います。
殺処分ゼロへの取り組みを継続するために、寄付やボランティアを募集している自治体も少なくありません。
環境省のプロジェクトが掲げる三つのポイント
環境省のプロジェクトでは、殺処分ゼロを達成するための三つのポイントを掲げています。それぞれの項目について詳しく見ていきましょう。
飼い主・国民の意識の向上
引き取られる犬猫の中には、飼い主に見捨てられたペットが一定数存在します。迷子札やマイクロチップ装着を怠ったために、飼い主が見つからないまま殺処分されることもあります。
無責任な飼い主が増えれば、飼育放棄や脱走が起こるのは当然です。このためプロジェクトでは、ペットとの付き合い方を広く国民に浸透させる啓発活動に取り組んでいます。
例えば熊本県動物愛護センターでは、里親探しイベントの来場者に、殺処分の様子を映像で見せています。捨てられたペットがどのような運命をたどるのかを目の当たりにすることで、飼う側の責任感が向上し、殺処分の減少につながりました。
参考:環境省 _ 人と動物が幸せに暮らす社会の実現プロジェクト|アクションプラン
引き取り数の削減
引き取り数の削減には『捨てさせない』『迷子にしない』のほかに、『不必要に繁殖させない』取り組みも求められます。
飼っているペットが子どもをたくさん生んでしまい、世話できなくなる『多頭飼育崩壊』や餌やりによる野良猫の繁殖などは、大きな社会問題となっています。繁殖を制限する具体的な取り組みは以下の通りです。
- 飼い主に対して不妊去勢手術を推奨する
- 猫は室内で飼育することを徹底させる
- 地域の野良猫に不妊去勢手術を施す
- 住民に対し、無責任な餌やりをしないよう呼びかける
不妊去勢手術に関しては、費用を助成したり獣医師と連携したりして、ハードルを下げている自治体も多くあります。
返還と適正な譲渡を進めていく
引き取られた犬や猫は、飼い主が見つかりさえすれば殺処分されずに済むでしょう。脱走や迷子によって飼い主の元に戻れなくなる犬猫も多いため、プロジェクトでは迷子札やマイクロチップの装着を推進しています。
飼い主不在の犬猫を、新しい飼い主に譲渡する取り組みも欠かせません。各自治体では譲渡先で動物が幸せに暮らせるように、一定の基準に沿って里親候補者の適性を評価するほか、譲渡後も継続して飼育に関する助言や指導を実施しています。
殺処分ゼロを達成した各自治体の取り組み
収容中の自然死・病気やケガの回復が見込めない場合の安楽死を除き、殺処分数ゼロを達成した自治体もいくつか現れています。各自治体が行う取り組みの特徴を見ていきましょう。
神奈川県の取り組み
神奈川県では、犬は2013年度から・猫は2014年度から連続で殺処分ゼロを達成しています。
県外からボランティアスタッフを受け入れ譲渡を積極的に進めるほか、引取り手数料を値上げして安易にペットを持ち込ませないようにする取り組みが功を奏しました。
神奈川県では殺処分ゼロを継続するため、引取り数の削減と返還・譲渡推進に取り組む体制を引き続き強化する予定です。
参考:令和2年度も殺処分ゼロ!(犬8年、猫7年) – 神奈川県ホームページ
奈良県奈良市の取り組み
奈良県奈良市は2019年度から2年連続で、犬と猫の殺処分ゼロを達成しました。目標達成のために実施した対策は、主に以下の通りです。
- 飼い主のいない猫の不妊去勢手術費を補助
- 生後間もない子猫や、人に慣れていない犬猫を預かるボランティア募集
- 里親探しの活動を手伝うボランティアとの協働
動物保護活動の大部分は、ボランティアに支えられて成り立っています。奈良市では、市民がボランティアに参加しやすくなるように、謝礼や補助金を支払う仕組みも整備しました。
2021年には、ふるさと納税の寄付メニューに『犬猫殺処分ZEROプロジェクト』を追加して、ボランティアの負担軽減や犬猫の医療に役立てています。
参考:【市長会見】 犬猫殺処分ゼロを2年連続で達成しました(令和3年5月13日発表) – 奈良市ホームページ
参考:10.動物愛護事業 【犬猫殺処分ZEROプロジェクト】 – 奈良市ホームページ
北海道札幌市の取り組み
札幌市の動物管理センターでは、引き取った犬猫の保管期限を設けていません。大学の獣医学部と連携して不妊去勢手術や健康管理・トレーニングなどを行い、いつでも譲渡できるように準備を整えています。
民間団体と協力して譲渡会を続けているほか、市民が訪れやすい時間帯にセンターを開放して里親候補者の確保にも努めました。
こうした取り組みによって市民の意識も変わり、犬は2014年度より殺処分ゼロが続いています。猫もゼロには届かないものの、2016〜2020年度まで毎年1頭ずつにとどまっています。殺処分の対象となった1件も負傷の回復が見込めない猫でした。
参考:札幌市における動物愛護管理の現状|札幌市
参考:札幌市動物管理センター 令和3年度 事業概要
今すぐ個人でできる取り組みとは?
国や自治体の取り組みは着実に効果を上げていますが、それだけでは十分とはいえません。殺処分をゼロにするために、個人ができる取り組みとは何なのでしょうか。
ペットを捨てない・迷子にしない
ペットを飼っている人や、これから飼おうとしている人は、どんなことがあっても『捨てない』ことを誓いましょう。生き物である以上、成長して見た目が変わったり病気やケガでお金がかかったりすることは、想定しておかなければなりません。
飼っている途中で家庭の環境が変わり、ペットを飼えなくなった場合は自治体に引取りを依頼する前に、里親を探す努力をしましょう。
また犬も猫も、どんなに注意していても迷子になる可能性はあります。災害や事故で飼い主とはぐれてしまうケースもあるため、迷子札やマイクロチップを装着させましょう。
ボランティア活動に参加する
殺処分ゼロに向け、より積極的に取り組みたい人には、ボランティア活動への参加を検討しましょう。
ボランティアには、犬の散歩やゲージの掃除・子猫の世話など直接動物とふれあえる仕事が多く、里親になりたくても難しい人にぴったりです。いずれペットを飼ってみたい人も、実際に世話を体験することで自信がつくでしょう。
譲渡会の手伝いや事務作業・SNSでの情報発信など、動物の世話に自信がない人が参加できる仕事も多くあります。あなたがチャレンジしやすいと思える活動を探してみましょう。
ふるさと納税で支援する
金銭的な支援を考えている人には、ふるさと納税がおすすめです。犬猫の保護活動に関わる費用は、ほとんどが自治体の予算で賄われます。このためふるさと納税の寄付金を、殺処分ゼロの取り組みに充てる自治体が増えているのです。
募集期間や目標金額は、自治体によりさまざまです。目標金額に達すると受付を終了することもあるので、ふるさと納税のポータルサイトで最新情報を確認するとよいでしょう。
総務省|ふるさと納税ポータルサイト
ペットの殺処分についての寄付はこちら
社会問題となった動物の殺処分問題。減少傾向にありますが、まだ罪のない多くの動物の命が失われ続けているという現状があります。罪なき命が失われることのない社会の実現のため、まだまだ支援を必要としています。
https://congrant.com/project/kifuzaidan/4403
まとめ
殺処分をなくすためには、自治体が引き取る犬猫の数を減らし、やむなく引き取られた犬猫には飼い主を見つけてあげる取り組みが重要です。しかしどちらも、国や自治体まかせでは効果に限りがあります。
殺処分ゼロを達成した自治体を見ても、実現には多くの住民や民間団体が関わっていることが分かります。個人にできる取り組みは多くあるので、殺処分なくしたい人はできる行動から始めましょう。