犬や猫を殺処分しなければならない理由はいくつかあり、全てを解決することは困難です。とはいえ、少しでも殺処分を減らすためにできることは多くあります。動物の殺処分がなくならない理由と、個人でもできる取り組みを紹介します。

なぜ殺処分しなければならないのか

自治体が引き取る犬や猫の数や殺処分件数は、年々減少しています。それでも2020年度には、犬と猫を合わせて7万2433頭が引き取られたうち、2万3764頭が殺処分されました。

なぜ自治体では、引き取った犬や猫を殺処分しなければならないのでしょうか。主な理由を見ていきましょう。

参考:環境省_統計資料 「犬・猫の引取り及び負傷動物の収容状況」

収容スペース・保護数に限界がある

犬や猫の年間引取り数を都道府県別に見ると、少なくても数百頭・多いところでは2000頭以上いることが分かります。それぞれの個体に適したゲージを用意し、身の周りの世話をするためには、多くの予算と人員を確保しなくてはなりません。

保健所や動物愛護センターの収容スペースが限られている自治体も多く、引き取った動物を全て世話し続けることは不可能です。このため一定期間、元の飼い主や里親が見つからない場合は、健康な動物も殺処分の対象になります。

参考:犬・猫の引取り及び処分の状況(都道府県・指定都市・中核市別)

譲渡が難しい

自治体では殺処分の件数を減らすために、里親を募集しています。しかし条件がとても厳しく、名乗り出た人のうち実際に里親になれる人はわずかです。

例えば横浜市では、里親が継続飼育が困難になった場合に代わって飼育する人の誓約書を提出しなければなりません。他の自治体でも面談やお試し期間などを通して、里親希望者の飼育能力を厳しくチェックするのが一般的です。

一方で、里親側にも飼いたい動物の好みがあります。一緒に暮らしたいと思える相手でなければ、飼い主も動物も幸せになれません。全ての動物にふさわしい里親が現れる確率は、非常に低いのが現状です。

参考:動物の譲渡を希望される方へ 横浜市

殺処分における飼い主側の問題

殺処分される動物の多くが、人間にペットとして飼われていた経験を持ちます。野良猫であっても、元々ペットだった猫が逃げたり捨てられたりした結果、生まれたケースがほとんどです。

なぜペットたちは捨てられてしまうのでしょうか。飼い主側の問題点を見ていきましょう。

無責任に飼う・増やす

多くのペットは飼い主から愛情を注がれて幸せに暮らし、寿命を全うできます。しかし中には、飼い主の都合で簡単に捨てられてしまうペットがいるのも事実です。

例えば犬の場合、『散歩が面倒』『しつけができない』といった飼い主側の努力不足が理由で捨てられるケースが後を絶ちません。子どものうちはかわいがっていても、大きくなった犬猫に興味を失い捨ててしまう人もいます。

『餌代がかさむ』『病気になったが治療費が払えない』という、金銭的な理由も目立ちます。不妊去勢手術を怠ったために子どもがたくさん生まれ、野良になったり飼育崩壊を引き起こしたりするのも問題です。

いずれにしても、ペットには何の責任もありません。全て飼い主の無責任さが招く悲劇です。

飼い主の高齢化

高齢化が進む日本では、頭や体の健康を維持するためにペットを飼い始める高齢者は珍しくありません。しかし犬や猫の寿命は10年以上と長く、飼い主が先にいなくなってしまうことも十分考えられるでしょう。

高齢の飼い主に家族がいたとしても、動物アレルギーだったり多忙だったりして、代わりにペットを飼えるとは限りません。

特に飼い主が要介護状態になった場合は、家族もペットの世話どころではなくなる可能性があります。もし飼い主が倒れてほかに世話をする人がいなければ、自治体が引き取るしかないのです。

家庭環境の変化

ペットを飼い始めた頃と家庭環境が変わったために、手放さざるを得ない人もいます。環境の変化が起こる主なケースは、以下の通りです。

  • 転勤でペット不可のマンションに引っ越すことになった
  • 離婚や別居で、どちらもペットを引き取れなくなった
  • ペットを迎えた後で、子どもが動物アレルギーを発症した


『失業や給与カットで経済的に苦しくなった』『被災した』など、家庭を持っていなくても環境が変わることはあるでしょう。

突発的な環境の変化を予測するのは難しいものです。景気悪化や災害などが原因であれば、飼い主の責任とは言い切れない事情もあります。

しかし万が一自分の身に何かあってもペットが殺処分にならないよう、預ける場所や引き取ってくれる人を探す努力は求められます。

殺処分における業者側の問題

殺処分される動物は、個人のペットだけではありません。ペットショップや動物カフェなどにいる犬や猫も、かわいそうな運命をたどることがあります。業者側が引き起こす問題を見ていきましょう。

ペットショップや動物カフェの閉店

ショップやカフェにいる動物は、店の経営が悪化すると、途端に行き場を失ってしまいます。

良心的なペットショップなら、他の店に支援してもらったり販売価格を下げたりして、ぎりぎりまで引取り先を探すこともあるでしょう。しかし現実には、動物を放置したまま、逃げてしまう業者もいるのです。

また動物カフェは個人が経営しているケースも多く、金銭的な余裕がある店ばかりではありません。餌代や家賃などの経費はカフェの売上に頼らざるを得ないので、何らかの事情で客足が遠のけば、すぐに動物の世話ができなくなってしまいます。

ショップやカフェの閉店は一度に多くの保護動物が出るため、保健所や動物愛護センターのキャパシティが一杯になり、早めに殺処分されてしまうおそれがあります。

悪徳なブリーダー・業者の無秩序な繁殖

殺処分される犬や猫を減らすために、個人ができる取り組みには何があるのでしょうか。主な手段を三つ紹介します。

寄付・基金

殺処分をなくす活動のうち、実際に飼育できない人でも可能な方法が『動物保護団体への寄付』です。保護された動物の飼育には、当然ながら費用がかかります。

餌代はもちろん、医療費や里親探しの活動費など、保護団体にはお金がいくらあっても困りません。寄付金は、動物の不妊・去勢手術の費用に充てられることもあります。

不妊去勢手術が済んでいれば、犬猫を増やしたくない里親も安心です。保護された野良猫に不妊去勢手術を施して元の場所に戻せば、みだりに増えないため保護猫の数自体を減らす効果もあります。

お金に余裕がある人は、殺処分を減らすためにも寄付や寄金を検討しましょう。

マイクロチップや犬鑑札をつける

保護される犬や猫の中には、飼い主とはぐれてしまったペットも含まれます。既にペットを飼っている人や今後飼う予定の人は、はぐれてもすぐに見つけられるよう、飼い主の情報が分かる目印をつけておきましょう。

犬の場合は『犬鑑札』と『注射票』を、首輪につけておきます。ただし首輪は外れることもあるため、個体ごとの情報が記録できる『マイクロチップ』を併用した方が確実です。

マイクロチップは動物の体内に埋め込むのでなくす心配がなく、鑑札が発行されない猫にも使えます。

なお2022年6月1日からは、ブリーダーやペットショップなどで販売する犬や猫にマイクロチップの装着が義務化されます。既に飼っているペットにも保護団体から譲り受けたペットにも装着できるので、積極的に活用しましょう。

参考:環境省_犬と猫のマイクロチップ情報登録に関するQ&A [動物の愛護と適切な管理]

保護犬・保護猫の里親になる

ペットを飼える環境にある人は、里親になるのが殺処分の動物を救う近道です。自治体や保護団体では、譲渡につなげるための健康管理やトレーニングなどを実施しています。

しつけや飼い方についてのアドバイスもしてもらえるため、保護犬・保護猫を飼うのが初めての人でも飼いやすいでしょう。家で飼えない場合は餌やりや散歩・小屋の掃除など、ボランティアとして保護動物の世話に携わる方法もあります。

ペットの殺処分についての寄付はこちら

社会問題となった動物の殺処分問題。減少傾向にありますが、まだ罪のない多くの動物の命が失われ続けているという現状があります。罪なき命が失われることのない社会の実現のため、まだまだ支援を必要としています。

https://congrant.com/project/kifuzaidan/4403

まとめ

動物の殺処分には、さまざまな理由があります。自治体や保護団体がどんなに努力しても、飼う側や売る側がしっかりしていなければ、捨てられる動物は減らず殺処分がなくなることもありません。

殺処分は社会全体で解決すべき問題といえるでしょう。もちろんあなたにも、殺処分の撲滅に貢献できる力があります。人間の都合で奪われる命が一つでも減るように、自分にできることから行動を起こしましょう。