引き取り手のいない犬猫は自治体が運営するセンターに持ち込まれ、殺処分の対象となることがあります。譲渡や返還で救われなかった命は、どのくらいあるのでしょうか?殺処分ゼロが実現されない理由や、殺処分を減らすためにできることを紹介します。
犬や猫が殺処分されている現状とは
はるか昔から、犬・猫はプライベートや仕事のパートナーとして人間に親しまれてきました。現代でも家族の一員として大切にされる犬猫がいる一方で、年間2万頭以上が殺処分の対象となっています。
犬の引取と殺処分の現状
環境省が公表する統計データ(2020年4月1日~2021年3月31日)によると、自治体が運営する動物愛護センターに引き取られた犬は2万7635頭です。そのうち、殺処分されたのは4059頭で、離乳していない子犬806頭も含まれています。
引き取られた犬の90%は飼い主不明ですが、残りの10%は飼い主からの依頼で引き取られました。一部の犬は返還や譲渡によって殺処分を免れるものの、年間4000頭以上の命が失われているのが現状です。
参考:環境省_統計資料 「犬・猫の引取り及び負傷動物の収容状況」 [動物の愛護と適切な管理]
猫の引取と殺処分の現状
環境省のデータでは、愛護センターに引き取られた猫は年間4万4798頭です。そのうちの1万9705頭が殺処分されています。引取り数は犬の約1.6倍・殺処分数は約4.9倍と、猫の現状は犬よりも深刻です。
特筆すべきは、殺処分される猫の多くが離乳していない幼齢であることです。殺処分された幼齢猫は1万3030頭で、全体の60%以上を占めています。
引き取られた猫のうち23%が飼い主からの依頼であり、犬よりも手放しが容易に行われている現状がうかがえます。
殺処分は減少傾向に。その理由は?
2020年度に殺処分された犬猫の合計数は、環境省のデータによると2万3764頭です。数だけを見ると相当数の命が奪われていると感じますが、殺処分件数は年々減少傾向にあります。
その理由に挙げられるのが、2012年及び2019年の『動物愛護管理法』の改正です。改正後は正当な理由がなければ、都道府県は犬猫の引取りを拒否できるようになりました(犬猫の引取り第35条)。
収容能力や体制に限界のあるセンターに代わり、民間の動物愛護団体や市民ボランティアが保護・譲渡活動を積極的に行っていることも、殺処分の減少につながっています。
参考:改正動物愛護管理法の概要|環境省
なぜ殺処分はなくならない
殺処分は減少傾向にあるものの、ゼロにならないのはなぜでしょうか?殺処分が発生する理由はさまざまですが、主に『飼い主』と『動物取扱業者』に問題があるケースが多いようです。
飼い主が原因によるもの
ペットとして飼われる犬猫は、飼い主が手放さない限り殺処分になることはほとんどありません。飼えなくなる大きな理由として、飼い主自身の高齢化や死が挙げられます。
現代は高齢化が進み、孤独の解消や健康維持のため退職後にペットを飼う人も多い時代です。しかし高齢になってから犬猫を飼い始めた場合、最後まで飼育責任を全うできない可能性があります。
一般社団法人ペットフード協会の調査によると、犬の平均寿命は14.48歳・猫は15.45歳です。例えば65歳で犬を飼い始めた場合、犬が寿命を迎える頃に飼い主は平均して80歳近くなると分かります。
愛犬を見送る前に亡くなったり、病気になって世話ができなくなったりする可能性は高いでしょう。実際『高齢で世話が難しい』『介護施設に入居することになった』などの理由で、引き取られる犬猫は少なくありません。
高齢でなくても犬猫が飼えなくなり、手放す人はいます。例えばペット禁止の賃貸住宅に迎え入れて飼い続けられなくなるのは、犬猫が殺処分されてしまう理由の一つです。
参考:2020年(令和2年)全国犬猫飼育実態調査 結果|一般社団法人 ペットフード協会
悪質なブリーダーや業者によるもの
犬猫の殺処分がゼロにならないのは、悪質なブリーダーや動物販売業者が大量繁殖・大量供給を行っているためでもあります。売れない・繁殖に使えない犬猫を、当たり前のようにセンターに持ち込む業者がいるのが現実です。
法改正で自治体は動物業者からの引取り依頼を拒否できるようになりましたが、根本的な解決には至っていません。悪質業者は繁殖に使えなくなった犬猫を野山に捨てることも多く、迷子が増える結果となっています。
悪徳業者が横行する背景には、ペットショップを中心とするペットビジネスがあります。生まれたばかりの子犬や子猫を安易に欲しがる消費者にも、責任があるといえるでしょう。
殺処分ゼロに向けての取り組み
殺処分ゼロを目指し、自治体や民間団体はさまざまな取り組みを行っています。殺処分を減らす社会の仕組みを整えることはもちろん、動物愛護・動物福祉に対する人々の意識を高めることが重要でしょう。
飼い主の意識向上
殺処分をなくすには、飼い主の意識を向上させる必要があります。日本は欧米と比較するとペット飼育の歴史が浅く、動物愛護の意識もそれほど高いとはいえません。
環境省自然環境局では、犬猫の殺処分ゼロを目指すため『人と動物が幸せに暮らす社会の実現プロジェクト』を立ち上げました。
アクションプランの1番目には、『適正な飼い方・管理を浸透させること』や『飼い主に責任を徹底させること』を掲げています。
自治体や民間団体が主催するイベントや講演・ボランティアなどに積極的に参加することで、命の重みや飼い主の責務がより理解できるようになるかもしれません。
参考:環境省 _ 人と動物が幸せに暮らす社会の実現プロジェクト | アクションプラン
センターに収容する頭数の削減
全国の自治体では、収容頭数を削減する取り組みを行っています。個人では引取りや殺処分の現状を知り、削減への取り組みを支持する姿勢が大切です。
神奈川県は、2013年度に犬の殺処分ゼロを達成しています。県では動物愛護管理法の改正に先駆けて、動物取扱業者からの引取り拒否を実施してきました。
動物の引取り料を2倍に値上げしたり窓口で飼い主を説得したりして、着実に収容される頭数を減らしていったのです。
ほかにも収容される頭数を減らすため、飼い主のいない地域猫に不妊去勢手術をする『不妊手術助成事業』を展開する自治体が多く見受けられます。
返還と適正譲渡の推進
センターに収容された全ての犬猫が殺処分とならないのは、自治体や地域のボランティアが飼い主への返還や里親への譲渡を積極的に行っているためです。
センターには、迷子猫や迷子犬も多く持ち込まれます。殺処分の憂き目に遭わないように、所有者不明の犬猫の写真をホームページにアップして、飼い主への情報提供を充実させている自治体もあります。
地域のボランティアと協働して、定期的に譲渡会を開催するセンターも少なくありません。飼い主として全うすべき責任を自覚させるため、多くのセンターでは譲渡前に講習会を開催し、譲渡条件について同意を得た上で引き渡しています。
殺処分を減らすために私たちができること
国や自治体だけの力では、殺処分ゼロの実現は困難です。そもそも、尊い命が奪われるのは、安易にペットを飼う私たちに責任があるともいえます。殺処分を減らすために何をすべきなのかを考えましょう。
責任を持って飼えるか責任を持って飼えるかを確認する
動物愛護管理法の改正によって、動物が命を終えるまで適切に飼養する『終生飼養の原則』が法律上で明示されました。これからペットを飼う予定のある人は、最後まで責任を持って飼育できるかを考えましょう。
『犬が病気になってしまって治療費がかかる』『ペット禁止のアパートに引っ越しをした』『自分に懐いてくれない』『吠えて近所迷惑になる』などの理由で、飼育を放棄するのは人間の身勝手です。
飼育にかかる費用・病気やケガをしたときの治療費・必要な住環境・ペットの寿命など、ペットを飼うために必要な情報をしっかりと調べてから迎え入れましょう。
ボランティアへの参加
殺処分ゼロへの取り組みに積極的に関わりたい人は、ボランティアへの参加も検討しましょう。募金や寄付・地域の援助によって運営する民間団体は、常に人手不足・資金不足です。
自治体が犬猫の引取りを拒否できるようになった裏側で、団体のシェルターに返還・譲渡先のない動物が持ち込まれ、世話に手が回らなくなっているのです。殺処分ゼロに貢献できるボランティアには、次のような種類があります。
- シェルターで犬猫の世話をするボランティア
- 地域猫(野良猫)のケア
- 譲渡会のサポート
- 子猫・子犬の一時預かり
- 避難所などで飼育されるペットの世話
さまざまな形があるため、自分ができそうなものを探してみましょう。
寄付や基金などの金銭的な援助
民間の動物愛護団体にとって、一般の人々からの寄付や寄金は大きな助けとなります。ネット上で簡単に申し込みができるため、ボランティアに参加できない人は資金面での支援をしましょう。
集まったお金は、譲渡会の開催やワクチン接種・避妊手術・動物救援ボランティアの育成・シェルターの運営費などに活用されるのが一般的です。
『どうぶつ基金』『WWFジャパン』『日本動物愛護協会』などの公益財団法人に寄付した場合、確定申告で『寄付金控除』が受けられます。
寄付者が寄付金の使い道を決定できる『ふるさと納税』で、殺処分ゼロに貢献するのも一つの手でしょう。基本的に返礼品はありませんが、たくさんの命が救われます。
ペットの殺処分についての寄付はこちら
社会問題となった動物の殺処分問題。減少傾向にありますが、まだ罪のない多くの動物の命が失われ続けているという現状があります。罪なき命が失われることのない社会の実現のため、まだまだ支援を必要としています。
https://congrant.com/project/kifuzaidan/4403
まとめ
殺処分される犬猫の数は減少していますが、最後まで面倒を見られず途中で飼育をやめてしまう人は後を絶ちません。自治体が引取りを拒否できるようになった一方で、ボランティア団体に飼えなくなった犬猫を持ち込む人もいます。
欧米に比べ、日本の動物愛護は後れを取っているといわれます。『責任と覚悟を持って面倒を見る』という飼い主の意識が向上しない限り、殺処分ゼロの実現は困難です。
人と動物が真に共生できる社会を目指し、自分ができることに少しずつ取り組んでみましょう。