一般財団法人日本寄付財団の2021年度助成事業の助成先の一つとして選ばれた一般社団法人日本承継寄付協会。このたび助成金を活用し、遺贈寄付の遺言書の作成を助成する「フリーウィルズキャンペーン」を実施することになりました。キャンペーンに先駆けて、日本承継寄付協会代表理事の三浦美樹さんと日本寄付財団理事の高丸慶さんとの対談が実現しました。日本承継寄付協会や遺贈寄付、社会の理想像などについてお二人に語っていただきました。

日本承継寄付協会について

-日本承継寄付協会を立ち上げようと思ったきっかけについてお聞かせください。

三浦 わたしは、相続を専門とする司法書士を長年やっていました。仕事も落ち着いてきて、40歳という人生の折り返し地点で今後の人生を考えたとき、残りの人生は社会に恩返しをして生きていけたらなと漠然と考えるようになりました。今の自分がこうやって普通に暮らせているのも奇跡の連続で、もしかしたら今の状況はなかったかもしれないという思いや、先人たちが築いてきた今の恵まれた暮らしを未来へつなげる責任があるように思ったからです。

ただ自分にできることは限られていると思いながらも、そのときふと今までのご相談の中で、寄付をしたいけど、どこにすればいいのか分からなくて悩んでいる人がいることや、疎遠な相続人にあげたくないけど、どうすればいいのか分からない人が何人かいたことを思い出しました。そこでもし私たち専門家が遺贈寄付という選択肢の提案ができていれば、本人のニーズも満たしながら社会の必要とされるところに資金が流れたのではないかと気が付きました。

本当はニーズがあったかもしれないのに提案できてなかったこと、寄付というお金の使い方について何も知らなかった自分の責任に気が付いて、衝撃を受けました。相続業界に長年いた私がそう思ったくらいなので、多くの士業が同じように遺贈寄付の提案ができていないと思い、その結果必要な情報を受け取れない人がいる。誰もができる遺贈寄付が本当に誰もができるようになるために自分たちが動く必要があると思いました。

そこで、寄付者のニーズにこたえながら、社会に必要とされていることにお金が回ればと思い立ち、寄付の勉強を始め、残りの人生をかけてやっていこうと決めました。決意してすぐに法人を設立したのは、流れができるまでは自分が逃げ出さないように自分にプレッシャーをかけるためでもありました。

-その気づきから今に至るまではどのような流れがあったのでしょうか?

三浦 初めの1年間は遺贈寄付に対する調査を実施しました。おひとり様も増える中、遺贈寄付はこれからの社会に必要なものという思いはありましたが、それを伝える説得材料を持っていなかったのです。アンケートと並行して遺贈寄付を知ってもらう活動を続けていると、わたしの本気度が伝わり、周りの方がどんどん応援してくださるようになりました。2年目は1,000人の50代以降の方を対象とした、大掛かりな全国調査を実施し、それを多くのメディアに取り上げていただけるようになりました。また、遺贈寄付を広めるために、士業や金融機関の方に向けた、承継寄付診断士の講座も行っています。

日本寄付財団からの助成について

-日本寄付財団の助成事業に応募した背景はどのようなものがありますか。

三浦 遺贈寄付は亡くなった後の寄付であり、お金がかからない、誰もができる寄付だとお伝えしていますが、遺贈寄付をするためには多くの場合遺言書を作成するために専門家に依頼するため報酬がかかります。そのハードルをどうやって下げるかを考える中で、遺贈寄付大国であるイギリスに目を向けてみました。イギリスでは、フリーウィルズウィークという専門家が無料で遺言書を作成するキャンペーンが行われ、遺贈寄付が発展してきた背景があります。このフリーウィルズウィークを日本版として開催したいと思い、申請させていただきました。

-助成を決定するにあたって、何が決め手になったのでしょうか。

高丸 日本寄付財団は、その名前の通り、寄付文化を日本に広げていきたいという思いがあり、その寄付先として若者にしっかりお金が回ることをやっていきたいと考えています。そうした中で、三浦さんは、遺贈寄付という一つの寄付の形を広げていく活動をされていて、その遺贈寄付が広がることによって、若い世代にお金が回っていくことを目指していらっしゃいます。わたしたちがやりたかったことを、実践されている三浦さんの活動を支援をしたいということで、今回助成をさせていただくことになりました。

三浦 通常、このような助成金を出していただく場合は、活動のために使われ1年くらいで終わってしまうことがほとんどだと思います。しかし遺贈寄付の場合は、1件あたりの寄付金額が高額となることが多いので、助成によって多くの遺贈寄付が実現すればより多くの資金が非営利団体に寄付されます。また、寄付者それぞれの託したい先も違うので、寄付者の方の想いや応援とともにあらゆる分野の寄付先に資金が流れます。助成金が何倍もの資金の寄付につながり、多くの方の想いも届く、このような点を理解していただけて本当に嬉しく感じています。

高丸 ”動機善なりや、私心なかりしか”という稲盛和夫さんの言葉にあるように、多くのNPO法人や社団法人がある中で、寄付をするときはその動機において善かどうか、代表の方や団体が、その社会課題について正しいアプローチを取っているのかを見させて頂いています。三浦さんの場合は、司法書士という専門家としての課題から実際に歩み出されたということで、私心はないなと感じました。また、わたしたちと同年代ということもあり、是非ご一緒させていただきたいと思いました。

遺贈寄付とは

-遺贈寄付について分かりやすく教えてください。

三浦 遺贈とは法律用語で、遺言により相続人ではない第三者に財産を渡すことで、遺贈寄付とは、相続財産を寄付をすることです。遺贈寄付は、相続財産の一部を「亡くなった後」に寄付する方法で老後のお金の心配をせずに寄付ができ、教育、医療、自治体・ふるさと、貧困、環境、文化・芸能などのテーマから「人生で使わなかったお金」を「自分らしく」未来に届けることができます。 人生最後の自己実現として「何を遺すか」の選択となるので、今後相続の選択肢の一つになると思います。

-遺贈寄付をするとどのようなメリットがありますか。

三浦 相続税を減らすことができたり、生前故人がお世話になった団体に寄付することができたりします。現状、寄付はあまり日本人に馴染まないものとされていますが、遺贈寄付は少し違うと思っています。”わたしはこういうものが好きでした”  ”わたしはこういう未来に貢献したい” というストーリーを伝えることができます。財産だけで渡した場合、相続人である子供や孫にその思いは伝わりませんが、遺贈寄付という形を取ると最後に残したものとして印象に残りやすく、”おばあちゃんってこういうことを考えていたんだよね”と何代も語り継がれることもあります。少額からでもプライスレスなお金の使い方ができるのです。

相続のときには、相続財産だけではなく、専門家への報酬、葬儀費用などたくさんのお金が動きます。しかし、遺言書を書かない限りそこには1円たりとも本人の意思で指定したお金はありません。これがたとえ1%でも本人が使いたいことに使うことができれば、その人の思いや生きた証を残すことにもつながります。人生100年時代と言われていますが、皆さん死ぬのは等しく1回です。そのタイミングに何を残すか。人生の集大成というタイミングで、何も残さないのはもったいないと私は感じました。

現代社会の問題点

-現在の高齢者を取り巻く環境における問題点を教えてください。

三浦 60歳以上の人が保有する金融資産の割合は近い将来に7割に達するとされ、60歳未満の現役世代にまわる金融資産は今後さらに減少していく見通しです

そのような中現状の相続では80代や90代の方が亡くなると、60代や70代の方に資産が相続され、ご兄弟相続の場合には同年代に相続されるので、高齢者間でのみ資金が循環し使われないままのお金が増えていることが問題とされています。しかし、高齢者が悪いわけではなくて、いつ亡くなるかはわからないから誰だって最後までお金は手元においておきたい。

だからこそ遺贈寄付が少しでも広まって、下の世代にお金が回るようになればと思っています。

高丸 アメリカ人とイタリア人、日本人を比較した時に、日本人が一番資産を残して亡くなるという調査結果があり、アメリカ人はマイナス、イタリア人はプラスマイナスゼロ、そして日本人はプラスの資産で亡くなるという傾向があるそうです。もちろんこれは、国民性や文化なども関係すると思いますが、日本人は国に対しての不信感があって、自分のことは自分で守らなければいけないと思い、溜め込んでいるのかもしれませんね。お金を使い切ってたとしても、日本が国民を守ってあげられる制度があれば、皆さん安心してお金を使えるのではないでしょうか。

三浦 わたしも遺贈寄付の話をするときに、遺贈寄付の遺言書を作成したとしても必ずお金を遺さないといけないわけではなく、自分のお金だから思いっきり使ってください、とお伝えしています。余ってしまうかもしれないというときのために、遺言書で自分が使いたいことを残しておければ安心ですよね。揉めないために仕方なく作る遺言書とは違い、遺贈寄付を選択された人たちは、皆さんとてもすっきりされ、幸せそうです。わたし自身、すでに遺言書は作成していますが、書いた瞬間にとても安心しました。

助成金を活用したフリーウィルズキャンペーンについて

-8月22日から始まるフリーウィルズキャンペーンについてお聞かせください。

三浦 遺⾔書作成に伴う専門家への報酬を「無料」とする「フリーウィルズウィーク」を一般社団法人全国司法書士法人連絡協議会の協力のもと実施します。遺言書は、イギリスでは2〜3万円で作ることができますが、日本では30万円ほどかかります。8月22日から8月31日までの第一弾では、短期間ではありますが、司法書士の皆さんに協力いただき、無料で開催できることとなりました。9月12日から2023年2月28日までの第二弾では、「助成」という形で全国どこの専門家に依頼しても遺贈寄付の専門家報酬が助成されるキャンペーンを実施します。

キャンペーン特設ページ

-キャンペーンの目的にはどのようなものがありますか?

三浦 遺贈寄付の遺⾔書作成に伴う専門家への報酬を無料にしたり一部助成したりするのは、日本では初めての試みとなります。まずは遺贈寄付を皆さんに知っていただくことが大きな目的です。そして、このキャンペーンを実施すると、寄付先団体の方がとても発信しやすくなるというメリットもあります。今後は遺贈寄付という言葉が、一気に広がってほしいという期待を持っています。

目指していきたい社会

-日本承継寄付協会と日本寄付財団が目指していきたい社会の理想像についてお聞かせください。

高丸 日本寄付財団としては、寄付文化を広げていくことをこれからもやっていきたいですね。日本だけに限らず、また課題に関しても様々なものに目を向けていきたいと考えています。寄付することが他者への貢献になるというだけではなく、寄付をすることで結果的に自分たちが豊かになることがエビデンスとして出ています。自分たちが幸せになりたいと思ったときに、寄付をしたら幸せになるよということが広がっていけばいいですよね。

三浦 遺贈寄付はお金持ちがするもので、一般の人たちにはできないものというイメージを持たれている方が多いです。寄付の中でも遺贈寄付は、亡くなった後に残ってしまった、自分ではもう絶対に使えないお金を寄付するので、実はハードルが低い寄付だと思います。遺贈寄付は、決して高級料理店にあるものではなく、定食屋さんのメニューにあるような身近なものなので、誰もができる寄付と言われています。このようなキャンペーンを実施したり、冊子を作ったりして、遺贈寄付のハードルをなくしていき、遺贈寄付を文化にしていきたいと思っています。

高丸 お金を自分で出すことだけではなくて、このように文化を広げていくことも社会貢献の一つの形だと思います。マインドを広げていくことができると、結果的に皆さんも豊かになるのかもしれません。お金持ちになったから寄付をするのではなく、寄付をしたからお金持ちになるという論理も成り立つかもしれませんね。

三浦 遺言書と聞くと遠い世界のことだと思いがちですが、自分の思いをしっかり残すために、年齢は関係ありませんね。このキャンペーンをきっかけに新しい寄付の形が認知されるようになれば、多くの方の幸せに繋がっていくのではないでしょうか。