個人のわずかな寄付が、殺処分寸前の犬猫の命を救います。寄付金は保護した犬猫の医療費やシェルターの運営費、新しい家族を見つける活動に有効活用されているのです。寄付の方法や寄付金詐欺に遭わないための注意点を解説します。
各自治体が取り組む「殺処分ゼロ」活動
各自治体では、民間の動物愛護団体と協働して『殺処分ゼロ』を目指す活動を行っています。殺処分される犬猫は減少傾向にありますが、ゼロへの道のりはまだ遠いのが現状です。
犬や猫が殺処分されてしまう背景や、自治体の取り組みには何があるのでしょうか?
犬猫が殺処分される背景
家庭で飼育できなくなったり飼い主がいなかったりする犬猫は、自治体が運営する動物愛護センターで引き取られ、譲渡先が見つからない場合は殺処分されます。
環境省自然環境局の統計データによると、2020年度に殺処分された犬は4059頭・猫は1万9705頭にも上ります。
猫の殺処分数は犬の約5倍です。不妊・去勢手術をしていない野良猫は繁殖率が高く、センターに持ち込まれても収容のキャパシティをすぐに上回ってしまいます。
ペットとして飼われていた犬猫が捨てられる理由には、飼い主の高齢化や死去・引っ越しなどがあります。中には『飽きてしまった』『手間がかかる』『成長したらかわいいと思えなくなった』など、身勝手な理由で捨てる人も少なくありません。
近年は新型コロナウイルスの影響で在宅時間が増え、ペットを飼う家庭が増加しました。しかし自粛期間が終わると、『仕事が忙しくて面倒が見られない』と飼育放棄をする人もいます。
参考:環境省_統計資料 「犬・猫の引取り及び負傷動物の収容状況」 [動物の愛護と適切な管理]
殺処分ゼロに向けた取り組み
全国には、各自治体が運営する動物愛護センターがあります。センターでは保健所と連携して、動物の引取り・収容・殺処分のほか『殺処分ゼロ』に向けたさまざまな取り組みも行っています。
環境省では、2013年に『人と動物が幸せに暮らす社会の実現プロジェクト』を立ち上げました。『飼い主・国民の意識の向上』『引取り数の削減』『返還と適正譲渡の推進』を活動の3本柱とし、全国のセンターと連携して殺処分ゼロを目指します。
例えば、香川県高松市の動物愛護センターでは以下のような取り組みを実施しています。
- 犬猫不妊去勢手術支援事業
- 犬猫の譲渡事業
- 幼齢犬猫の一時預かり(ミルクボランティア)
- 飼い主の適正飼養や虐待・遺棄の防止についての啓発活動
- 犬猫一時保管施設の整備事業
ほかにも不妊去勢手術や譲渡を積極的に行う自治体は多くあります。国が一丸となって、殺処分ゼロに向けて動いていることが分かるでしょう。
参考:環境省 _ 人と動物が幸せに暮らす社会の実現プロジェクト | アクションプラン
寄付金はどのように使われる?
殺処分ゼロに向けて私たちができる取り組みの一つに、寄付があります。動物愛護のために活動する動物愛護団体(民間ボランティア・公益財団法人など)や自治体に寄付したお金は、どのように使われるのでしょうか?
動物の保護や新しい飼い主を探す
多くの動物愛護団体では、寄付金を『動物の保護』や『新たな飼い主探し(譲渡会)』に活用します。2019年の動物愛護管理法の改正にて、自治体のセンターは所有者不明の犬猫の引取りを拒否できるようになりました。
この改正を受け、センターでの収容数が減少する一方で遺棄や過剰繁殖が問題化し、民間が運営するシェルターに収容される犬猫が増加しています。
現在、多くの動物愛護団体は人手不足・資金不足に悩まされており、人々の支援なくしては運営が困難な状態です。集められた寄付金は、シェルターの運営費(食費・医療費・電気代・家賃など)や譲渡会の開催費などに充てられます。
不妊・去勢手術用
メス猫の発情期は生後6~12カ月から始まり、交尾後は高確率で妊娠します。1回の妊娠で生まれる子猫は4~8頭で、子猫が離乳すると次の妊娠が可能です。
環境省ではメス猫が不妊手術をしない場合、1年後には20頭以上・2年後には80頭以上に増えると試算しています。
殺処分される猫を減らすには、不妊・去勢手術によって繁殖を防ぐ必要があります。ただ、手術費用はメス猫で1万~3万円程度・オス猫で5000円~2万円程度と高額です。全ての地域猫に手術を受けさせるには、費用がいくらあっても足りません。
寄付金は、動物愛護団体が主催する不妊・去勢手術助成事業に充てられます。各団体では、一般のボランティアから飼い主のいない猫の不妊・去勢手術を募り、不妊去勢手術費用の一部を助成しています。
参考:環境省_パンフレット「もっと飼いたい?」
啓発・啓蒙活動
団体の啓発・啓蒙活動やボランティアの育成などに、寄付金が使われるケースもあります。動物愛護の『啓発・啓蒙活動』とは、飼い主のいない犬猫を増やさないための知識を一般人に授けることです。啓発・啓蒙活動には次のようなものがあります。
- 講習やセミナーの開催
- ポスター・写真の展示
- チャリティーイベントの開催
- 相談会の実施
- 啓蒙・啓発動画の作成
- 動物救援ボランティアの育成
活動によって無責任な飼い方する人々がいなくなれば、所有者不明の犬猫がセンターに収容される数は大きく減るでしょう。
寄付にはどんな方法がある?
殺処分を減らすために個人が寄付をする先は、『活動団体・法人』『自治体(ふるさと納税)』『プロジェクト』などがあります。お金がどのように使われるかを事前に把握し、納得の上で寄付をすることが大切です。
活動団体・法人への寄付
『動物愛護団体』や『保護団体』と呼ばれる組織は、遺棄されたりセンターに収容されたりした犬猫をシェルターで保護し、新しい飼い主を探す活動をしています。
その多くはNPO法人・公益財団法人・一般社団法などの非営利法人で、民間企業と違って基本的に事業利益がありません。活動を続けるにあたり、施設の運営費や犬猫の医療費・食費などを補うため、ホームページで一般からの寄付金を募集しています。
寄付の方法は、団体が指定する振込先への振込・クレジットカードによる決済が一般的です。毎月一定額を寄付したい場合は、クレジットカードによる継続支払いを選択しましょう。
団体によっては、ペットフードや猫砂・ペットシートなど物資の寄付も受け付けています。
ペットの殺処分についての寄付はこちら
社会問題となった動物の殺処分問題。減少傾向にありますが、まだ罪のない多くの動物の命が失われ続けているという現状があります。罪なき命が失われることのない社会の実現のため、まだまだ支援を必要としています。
https://congrant.com/project/kifuzaidan/4403
ふるさと納税
ふるさと納税は『納税』と名が付きますが、自分が応援したい自治体に『寄付』ができる寄付制度です。寄付額の2000円を超える分が所得税と住民税から還付・控除される上、自治体から返礼品が送付されることもあります。
ふるさと納税の特徴は、寄付する人が自由に自治体・寄付金の使い道を選べることです。使い道に『動物愛護事業』が含まれる自治体を探してみましょう。
例えば、群馬県は『飼い主のいない猫対策支援事業』『無責任飼い主ゼロ推進』『犬猫の譲渡事業』に力を入れている自治体です。申し込み後、寄付金の使い道のメニューで『ぐんまの動物愛護推進』を選択すると、寄付金が該当事業に活用されます。
返礼品はもらえませんが、ふるさと納税を通して自治体にある動物愛護団体やボランティアに直接寄付をすることも可能です。
参考:群馬県 – ふるさと納税「ぐんまの動物愛護推進」【ご寄附のお願い】
プロジェクトへの寄付
自治体や動物愛護団体が主催するプロジェクトや、クラウドファンディングに寄付をする方法もあります。
名古屋市では殺処分ゼロを目指す取り組みをプロジェクト化し、自治体のホームページやふるさと納税サイト・SNSなどで寄付金を募りました。
『すべての命を救える未来へ!犬猫サポートプロジェクト』は2021年11月22日に目標金額を達成して終了しましたが、今後も同様の取り組みが実施される可能性は高いでしょう。
狩りシーズンが終わると捨てられてしまう『鳥猟犬』を救うプロジェクトや、多頭飼育崩壊の現場から猫を救うプロジェクトを実施する活動団体もあります。
主催団体にもよりますが、寄付方法はネットでのカード決済または銀行振込が一般的です。
参考:名古屋市:目指せ殺処分ゼロ!犬猫サポート寄附金について(暮らしの情報)
寄付する際の注意点
寄付をするときは、寄付金を本来の用途以外に使用したりお金をだまし取ったりする『寄付金詐欺』に注意しましょう。詐欺団体に寄付してしまうと、犬猫の命を救うための貴重なお金が人間の私利私欲に消えてしまいます。
寄付金詐欺に注意
「殺処分される命を救いたい…」という人々の善意を利用した寄付金詐欺が横行しています。集めた寄付金は動物愛護活動には使われず、個人の懐へと消えてしまうのです。これらは『寄付金を装った振り込め詐欺』ともいえます。
- 公的機関や動物保護団体を装い、個人名の口座にお金を振り込ませる
- 既存の団体に酷似した団体名を名乗り、街頭やネット上で寄付金を集める
- 動物保護団体が、集めた寄付金を別の用途に利用する
活動団体が行う譲渡会では、犬猫を引き渡すときに『譲渡金』が発生する場合があります。これまでの飼育にかかった経費を譲り受ける人が一部負担する仕組みで、営利目的に使われるわけではありません。
しかし、中には譲渡金や寄付金をもらうために、劣悪な環境で犬猫を多頭飼育する悪徳団体もあります。
信頼できる団体かどうかを調べる
寄付をする前に『その団体が実在しているか』『信頼できる団体か』を調べることが、寄付金詐欺に遭わないために大切です。
まずは団体のホームページを探し、活動実績を確認しましょう。日々の活動を写真付きで頻繁にアップしている団体は、熱心に保護活動を行っている可能性が高いといえます。
ただ、犬猫の『寄り』の写真ばかりが掲載されていた場合、背景を映せない理由が何かしらあると疑った方がよいかもしれません。『実際は保護活動をしていない』『活動をしていても保護環境が悪い』というケースが考えられます。
心配な場合は、自治体が運営する動物愛護センターと提携している保護団体に寄付する手もあります。100%安全とは言い切れないものの、寄付金詐欺の可能性は少ないといえるでしょう。
まとめ
殺処分ゼロに向けて、個人ができる取り組みは数多くあります。地域のボランティアや活動団体のスタッフとして働く方法のほか、直接的な関わりが難しい人は『寄付』という形でのサポートも可能です。
ただ残念ながら、近年は動物愛護をかたった寄付金詐欺が横行しています。寄付金がどこで・どのように使われるかをよくチェックせずにお金だけを振り込むのは、悪徳な団体の私腹を肥やすだけです。
不安な人はふるさと納税を活用して、自治体の動物愛護事業を支援しましょう。